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何故引き返しているのだろう。
行動に違和感を覚える。
──あの子の名前。
以前聞き忘れた、店員の名前。
聞こう。
次第に女の子との距離が縮まり、やがて目の前に立った。
女の子はあたしに気付くと、慌てたように顔を上げる。
あたふたして視線が右へ左へと泳ぎ始めた。
そして、ゆっくりと視線がこちらに向けられる。
「あ、あのさ……名前──名前は、何て言うの?」
せっかくこちらを向いてくれたにも関わらず、そっぽを向いてしまった。
やはり、人付き合いに慣れていないからか。
少し照れくさくなってしまう。
女の子は何も答えなかった。
それは知ってる。
話せない子だから。
しかし、手のひらをこちらへ向け胸の前で小さく広げる。
それは「待ってて」ということだと判断した。
あたしは頷くと、女の子が胸ポケットから手帳を取り出す。
同時にペンも手に取ると、すらすらと文字を書き始めた。
達筆で、格好いい字。
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