追憶‐ついおく‐

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いつもここで見る顔。 ただ、それだけではない気がした。 どこかで、一度出会っている。 でも、思い出せない。 あたしは額に手を当てる。 この気持ちはなんだろう。 懐かしい? 〝初めての──〟 脳裏に響いた、あたし自身の声。 初めて。 何が? 何が初めてなの? 玲央名は胸ポケットに手帳をしまうと、屈んであたしの顔を覗き込んだ。 心配しているような表情。 ──この表情。 〝なんで、やり返さないの!〟 誰の声なの? 知らない声が、頭の中で木霊した。 こんなの、知らない。 何も分からない。 だって、あたしの記憶じゃないから。 身に覚えのない言葉なのだから。
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