追憶‐ついおく‐

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ただ、何故こんなにも懐かしく感じるのだろうか。 言われたはずなのに、言われていない。 あたしの記憶──いや、記憶なのか? 依然として俯いた顔を覗き込んでくる玲央菜。 その瞳は、どこか不安そうだった。 あたしは体調が悪いだとか、落ち込んでいるとかではない。 そんな顔で見ないでよ。 その時、玲央菜の瞳が一瞬蒼く光った。 そんな気がした。 〝こんな世界──〟 〝戻ってよ──〟 〝悠里ちゃん〟 我に返って気付いた時には遅かった。 あたしは、泣いていた。 瞳から大粒の涙がボロボロ地面へ落ちて行く。 誰かの前で泣いたのは初めて。 玲央菜は急に慌て出す。 ポケットからハンカチを取り出し、あたしに無理やり手渡した。 しっかりと受け取ると、それで目元を拭った。
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