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「……インフルエンザも歳をとると命に係わります。あなたも大変でしょうが、出来る限りでいいので、ご両親の容態に注意してください。部屋は暖かく、乾燥させないように……。症状が治まってから2日は会社を休んでください」
美智が診察を終えて待合室に戻ると、先に診察を済ませた両親、祐介と智子が赤い顔をして仏像のように長椅子で固まっていた。美智が痛む膝を折り曲げて隣に腰を下ろすと、祐介が口を開いた。
「お前もか?」
その声で、「ブルータス、お前もか?」と言って息を引き取ったカエサルになったような気がした。
「決算なのよ……」
美智はうなだれた。5月初旬には決算作業を終えなければならないから、インフルエンザを宣告され、長期間休まなければならないのは暗殺されるのに等しいことだ。
「諦めなさい」と祐介が言い、「もう、経理課じゃないのでしょ?」と智子が慰めた。
「それはそうだけど……」
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