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「あの人は山猫の鉄。若いころはとび職をしていたの。投げられても、高いところから落ちても、猫のように立つことが出来るのよ」
友子は少しばかり緊張した面持ちで弥生に対峙する夫を見つめていた。
「とびなら私と同じだ」
チヅルが立ち上がる。美智は庭に飛び出して猫沢老人と弥生の間に割って入った。
「止めてください」
「邪魔だ」老人が吼え、「どうして止めるの?」と弥生が訊いた。
周囲に散っていた男たちが集まり、3人を取り囲む。
「何か誤解があるのよ。どうして弥生さんはここに来たの?」
「美智さんが、拉致されたって聞いたから」
「拉致?」
美智や男たちの目が点になる。
「俺たちが、この女を拉致したというのか?」
梅田が言った。
「拉致じゃないの?」
弥生がチヅルに向く。
「だって、中央公園で見たんだよ。美智さんが黒塗りの車でここに入るとこ。めっちゃ、顏が強張っていた。友達が、ここは山猫組の組長の家だって……」
縁側の前でチヅルが声を上げた。
美智は、中央公園に並んでいたバイクのヘッドライトの眩しさを思い出した。あの集団の中にチヅルもいたのだろう。
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