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「チヅルさん。私は拉致されたわけではないの……」そんな側面もあるけど……、と思いながら話を続ける。「……頼みがあって、ここに来たのよ」
「そうなんですか? 私はてっきり……」
弥生は、投げ飛ばした男たちをぐるりと見渡してから「ごめんなさい、ごめんなさい」と何度も頭を下げた。
「ごめんで済むなら、警察はいらないぞ」
自分の腰をさする梅田が言うと、男たちが苦笑する。
「ウメ、元ヤクザのワシたちが、そんなことを言える立場ではない。おまけに若い女ひとりにやられるとは……。恥ずかしいと思え」
猫沢老人が作務衣を拾って縁側に上がると男たちも続いた。
「だとしても……」猫沢老人は縁側の上から3人の女を見下ろす。「……用があるならドアを叩け。不法侵入したばかりか、暴力をふるいおって……。詫び代わりに、酌をしていけ」
屋内に向かう猫沢の背中いっぱいに獣の入墨があった。
「黒猫?」
チヅルが首を傾げる。
「虎でしょ。黒いけど……」と、弥生。
「イリオモテヤマネコですよ。よく分からないけど、貴重なんですって。……さあ、さあ、上がってくださいな。女の子がこんなに来るなんて、何年ぶりかしら……」
友子が嬉しそうに招いた。
「その前に……」と、弥生の前に立った猫沢医師がクレーンのアームを指した。
「門を開けるから、あれを駐車場に入れなさい。駐車禁止の切符を切られるのは嫌だろう?」
「そうだ!」
声を上げた弥生が門に向かって走った。
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