心の壁

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平成最後のゴールデンウイークは天皇継承の行事があって十連休の会社が多いが、中小企業のNOMURA建設は違う。オリンピック景気で仕事があるうちに業績を上げておこうという腹積もりだ。それは、決算作業を行う経理課にとっては都合が良かった。 ゴールデンウイークの初日、美智が二日酔いの頭を抱えて出社すると、すでに半数ほどの社員が席についていた。 「おはよう。みっちゃんが1番じゃないなんて、珍しいね。まだ、具合が悪いのかい?」 いつもにこやかな二宮が顔を曇らせる。 「ええ、すこし……」 応えてから、三井の席の前に立って挨拶をし、机の上に大洋富士建設との契約書があるのに気付いた。社長が防火設備の改修工事を約束してしまったものだ。普段なら契約書を作るだけでも数週間要しているのに、すでに社印を押すばかりになっている。 速い!……、心の中で驚きの声を上げた。 「みっちゃん、どうかした?」 三井が不思議そうな顔で美智を見上げた。 「あ、いえ……。大洋富士建設からの発注なんて、珍しいですね」 「防火扉とシャッター雨戸を交換するだけの工事だ。5年ほどしかたっていないのに交換というのだから、リコールの(たぐい)だろうね。……ここだけの話、利益率が高い。おそらく口止め料込、ということだ」 後半は声を潜め、最後には薄く笑う。彼も状況を薄々察知しているのだろう。 「そうですか……」 ゼネコンが絡んでいるだけに、今度ばかりは会長も対処に苦労するのではないかと思った。
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