心の壁

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初瀬に決算作業を教えていると、時の過ぎるのは早かった。昼休みのチャイムが鳴り、いつものように容子が二宮を誘って食事に行く。それから他の社員も列をなして部屋を出て行った。 美智は普段とちがった。二日酔いで食欲がなく、朝食を抜いてきた。弁当も作らなかった。そうして席を離れるのは考えがあってのことだ。 「希美さん、私も出て来るわね。1人にして、ごめんなさい」 「あら、珍しいですね」 希美は、いつもの小さな弁当箱を広げるところだった。 「朝、起きられなくて、弁当を作る時間がなかったのよ」 「そうですか。では、ごゆっくり……。外食ですか? コンビニ?」 希美は笑みを作ったが、その瞳が微妙に揺れたのを美智は見逃さなかった。彼女は、2週間の内に帰宅後の美智の動向を報告すると瑞穂に約束したのだ。祝祭日を除けば、彼女に残された時間は少ない。自分が席を外したチャンスを見逃すことはないだろう。 「大通りのファミレスに行ってきます」 そう告げて部屋を出るとトイレに入り、スマホを手にしてその時を待った。
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