心の壁

5/21
前へ
/61ページ
次へ
「美智さんは、いつどこにいても何でも知っている。今、私がこんなことをすることまで知っていた。どうしてです?」 勢いはないものの、逆切れのように見えた。 「……それを知ってどうするの?」 「会社のためです」 「どういうこと?」 「美智さんは、私たちが知らない何かをやっている。盗聴とか、盗撮とか……。それは悪いことだと思います」 「……そういうこと」 美智はスマホの画面を希美に向ける。そこには、パソコンのカメラがとらえている美智と希美の姿が映っていた。 「インフルエンザで休む前に、誰かが私のパソコンに細工をしたと思ったのよ。それで知り合いに調べてもらったらウイルスがあった。その人が、誰かがパソコンに触れたら画像を送るソフトを入れてくれた。だから、希美さんがデータのコピーを取っていると分かったのよ」 「それで……」 「それだけじゃない。希美さんは片桐監査役の所に出入りしているでしょ?」 「え?」 希美の目が大きく開いた。 「工藤課長にも訊かれたはずよ」 「監査役と会うことが悪いことですか?」 「監査役が何をしようとしているのか、知っているの?」 「いいえ、私は何も知りません」 希美は噓を言った。それが分かるから、美智のため息が漏れた。
/61ページ

最初のコメントを投稿しよう!

138人が本棚に入れています
本棚に追加