お局美智Ⅶ ――ウィルスを追え――

心の壁

「……私の推測では、監査役はウチとモチズリ建築の合併を考えている。そうして会社を大きくしようとしている」

「そ、それがいけないことですか？　会社のためになるなら、良いことじゃないですか？」

「それが社員のためになるのなら、私も賛成よ」

「それなら……」

「ただ合併するだけなら意味がないと思わない？　ウチとモチズリでは、経営の仕方も社内風土も違うはずよ。そうしたことまで、監査役は考えているのかしら？」

「合併したら、スケールメリットを生かして経営効率が上げられると思います」

「それは市場での立場が強くなるということね。そして役員や経理、総務といった人員の削減ができるということなのよ。営業だって減らせるかもしれない」

「でも、そうしなかったら大きなゼネコンには太刀打ちできなくなります。今はオリンピックや復興の仕事があるけど、いずれ建設業界にも不況がやって来るはずです。そうなったら、否応なしにリストラが行われます。場合によっては、会社がつぶれてしまう」

「そうね。希美さんの言うことは正しい……。けど、合併することで削減される社員が、希美さん自身だったらどうするつもり？」

「それは……」希美が口ごもる。