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「監査役と親しくしていたら、会社に残ることができる?」
「片桐監査役は、人事には口を挟まないということでした。そういうところはクールなんです。それに私だって、誰かに取り入ってどうこうしようとは思いません。実力のある人が会社に残り、会社を支えていく。そこは、監査役と同じ考えです」
「……会社も生き残らなければならないけれど、社員自身も生き残らなければならないでしょ。実際、力不足の人もいるけれど、そうした人の中にもこれから成長する人がいる。守らなければならない家庭を持っている人もいる。そうした人を守るのも、会社の使命だと思うのよ」
「それで会社が倒産したらどうします? 美智さんには、何かアイディアがあるのですか?」
「……分からないわ」
希美の問いに正解があるなら、世の中の経営者が苦労することなど無いだろう。美智は頭を左右に振った。
「分からない? それなのに、合併はいけないことだと……。それじゃ、何も考えずに伝統を守れという年寄りと同じじゃないですか。野村一族が好きにしているようでは、NOMURA建設は時代に取り残されてダメになっていくんです」
希美の声が震えていた。
「そうかもしれない。……でも、私は、目の前にある仕事や課題を、精一杯解決していくことしかできないの。今までそうしてきたし、これからもそうすることしかできないと思う。……とにかく、私のパソコンのデータを盗むのは止めてね。データは全部消させてもらうわよ。こんなことをしたと会社にばれたら、クビになるわよ」
きつく脅かし、USBメモリをパソコンに挿した。
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