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その時ドアが開き、コンビニのビニール袋を下げた三井が現れた。
「お帰りなさい」
美智のささくれだった声と希美の潤んだ視線を浴びた三井は困惑の表情を浮かべた。
「どうかしたのかい?」
三井が遠慮がちに尋ねたが、2人の女は聞こえないふりをした。
美智は、背後をそろそろと通り過ぎる三井の気配を感じながら、USBメモリのデータを削除する。
「さあ、これですべてお終しまいにしましょう」
USBメモリを希美に返してパソコンを閉じた。
表情を石に変えた希美は、無言で席に戻った。弁当は広げてあるが、箸をつけようとはしなかった。
コンビニ弁当をつつく三井の眼が2人の間を行き来する。美智はしばらくじっとしていたが、彼の視線にいたたまれなくなって席を離れた。
社屋を出て曇り空を見上げると、希美の強張った表情を思い出す。彼女は、自分の話に納得していないのだろうと思った。
「私だって分からないのよ」
美智自身、自分が正しいのかどうか分からない。それでも何かを決めて進まなければならない。それが生きていくということだと思う。
「会社は私が守る」
そのために盗聴システムを隠し続けると誓い、コンビニに向かった。
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