心の壁

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コンビニで買物を済ませた美智は古い住宅街にある東公園のベンチに腰を下ろし、買ってきたおにぎりをほおばった。ゴールデンウイークだというのに公園は閑散としている。老人は古い建物の中に身を潜め、若者や子供たちはレジャーに出かけているのだろうか? いや、古い住宅地には、若者や子供など住んでいないのかもしれない。生き物の姿といえば、芝生を横切る猫と電線に止まる雀ぐらいのものだ。周囲をぐるりと見渡して驚いた。電線の向こう、離れた住宅の屋根の上に手を振る人影があった。 「チヅルさん?」 何をしているのだろうと思いながら手を振り返した。昨晩、勘違いをした彼女が弥生を連れて猫沢の家に乗り込んできたことを思い出す。女二人で元ヤクザの家に美智を助けに来たというのだから……。改めて考えると、怖くもあり、嬉しくもあった。 あそこが工事現場なのか……。当たり前のことに気付いてよく見ると、チヅルもおにぎりを食べているように見えた。 腹が満たされると、気持ちに余裕ができる。希美にきつく当たりすぎたかもしれない、と反省しながら時刻を確認して立った。 遠くのチヅルに手を振ると、彼女も手を振り返してくる。なんていい子なのだろう。そんなチヅルが高校を中退して暴走族に混じっていたというのだから、世の中は分からないものだと思う。
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