心の壁

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結局、猫沢老人は何のためにやって来たのだろう?……そう考えるのは二度目だ。 「いずれ分かる、か……」 老人の言い方を真似てパソコンを閉じた。彼がそう告げた以上、来社には意味があったのに違いない。それが何なのか見当がつかず、部屋の灯りを消して暗闇を見つめた。 疑問を整理する。猫沢老人の意図、瑞穂に接触しようという畑中議員の思惑、何者かの口利きと大洋富士建設の手抜き工事への加担……。どれも危険な香りがした。 「静かだわ……」眼が冴えるばかりで考えがまとまらない。以前なら、目覚まし時計のコチコチという音で時の流れを感じたのだが……。壊れた目覚まし時計は置物と化している。代用のスマホが、闇の中に午前3時を表示した。 「睡眠不足は美容の大敵なのに……」そんな気持ちが残っていると気づき、奇妙な可笑しさを覚える。 「何とかなるわよね」 自分に言い聞かせると、ほどなく眠りに落ちた。                          --おしまいーー
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