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2日間で熱は下がり、頭にも身体にも力が湧いてくる。そうなると気になるのは仕事のことだ。ノートパソコンのスイッチを入れて盗聴システムを立ち上げた。
最初の音声ファイルは瑞穂のスマホが録音したものだ。彼女は緑中央銀行の支店長をしていたが、リストラされてNOMURA建設の監査役に就任した。銀行は退職した形になっているが、NOMURA建設とモチズリ建築を合併させ、それを功績として銀行に復職しようとしていると美智は見ている。
『片桐です。……猪狩室長、お久しぶりです。どういったご用件ですか?』
彼女の声には、緊張の中にも何かを期待するような弾む雰囲気があった。電話なので猪狩の声は録音されていない。
『先生が?……どういうことです。当行はモチズリ推しではなかったのですか?……そうですか……、では、お会いしてみます』
瑞穂が猪狩と呼ぶのは、緑中央銀行の秘書室の猪狩彰だ。リストラされた後も連絡を取り合う声を幾度か耳にしていたが、これまでは意味のない情報交換ばかりだった。モチズリ建築の名前が出た以上、今回の話はNOMURA建設にも関わりのあるものだと予感したが、先生というのが誰なのか分からない。手を止め、モチズリ建築を重視していた銀行の方針転換について考えた。やはり、シェアハウスにまつわる世間の風評を気遣ってのことだろうか? それとも、他に理由があるのだろうか?
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