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『……本当ですか?』
『僕には噓を言う理由などないよ』
二人の会話はそれで終わっていた。この会話をきっかけに、希美は自分が採用された理由に関心を深めたようで、直後、野村一族の1人である容子にもそのことを訊いていた。それに対する返事が『どういうこと?』と要領を得ないので、今度は瑞穂を訪ねて同じことを質問していた。
『以前も言ったでしょ。私は、人事のことに口を挟んだりしない』
瑞穂の返事は、音声を聞いていた美智を驚かせた。役員会で美智の異動を提案したのは瑞穂だったからだ。
『そんなことより、佐久間さんが自宅で何をしているのか、分かったの?』
その声は、美智の心臓を鷲づかみにする。
『それはまだ……』
『しっかり働いてくださいね。お父さんのように、リストラされてしまわないように……。下の娘さんを保育園に預けるためにも、仕事は止められないでしょ』
その口調に刺々しいものを感じた。おまけに父親や娘のことを持ち出して仕事を強要するのはパワハラではないか……。そうやって希美をコントロールしているのだと思うと、彼女に対する同情と瑞穂に対する敵愾心を覚えた。
『佐久間さんはインフルエンザで休んでいるので。2週間の内には何とかします』
希美の返事に美智は首を傾げる。どうやって私の行動を知ることが出来るというのだろう?……全く見当がつかなかった。
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