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僕の好きなもの
彼女と出会ったのは、地元の大学の文学部に入学したばかりの頃だ。
火曜日の一限目。
早起きの苦手な僕が時間割の関係で取らざるを得なかった講義で、偶然高校のクラスメイトに出会った。
そこで紹介されたのが同じ文学部の東雲さんだった。
「西日、こちら東雲さん。同じサークルの友達なんだ」
「あ、初めまして。西日雨実と言います」
「初めまして。東雲晴花です。よろしくお願いします」
お互いに少し人見知りの節があり、目も合わせられないまま挨拶を交わすと「なんか暗いなあ~」と昔のクラスメイトは笑った。
彼女も釣られて「ふふっ」と可愛らしく笑っていたのを憶えている。
そのまま一緒に講義を受けて、学食で昼食を取った。その頃にはもうお互い人見知りも無くなっていた。
「西日さんは来週またこの講義に来ますか?」
「はい。出席さえすれば単位が取れるらしいので」
「あ、私もです」
東雲さんは悪戯っ子のような笑みを浮かべて、僕は来週も絶対に早起きしようと心に決めた。
それからも僕たちは何度かの講義と同じ数の昼食を共にした。
そして、夏休み前の期末試験日。
「――僕は東雲さんのことが好きです」
僕は彼女に告白した。
連絡先も交換せず、教室で会っていただけだった関係の儚さに焦りもあったのかもしれない。
この講義が終われば、もう会えなくなる。そんな気持ちに突き動かされた。
「まだ、早すぎる気がします」
彼女の答えを聞いて、やっぱり、と僕は思った。
やっぱりと思ったからにはもちろん僕にもある程度そう言われるかもしれないという予感はあったわけなので、現実にそう言われても大したダメージはないんじゃないかと高を括っていたが実際言われると地獄に落ちた。
「もっとお互いを知ってからじゃないと……」
「そ、そうですよね」
口はそう言いながら、内心ではそんなこと関係ねえだろとか思ってた気がする。
だってもう、僕は好きになってしまったのに。
これで終わりとかマジか。
これで終わり。
……これで終わり?
「じゃあ」
そんなの、嫌だな。
僕の頭はその気持ちで満たされていた。
「これから知っていきませんか。だから、あの」
どうにかしなきゃ。
どうにか、と僕は足掻く。
「あなたの好きなものは何ですか?」
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