あなたと僕の好きなもの

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あなたと僕の好きなもの

「あなたの好きなものは何ですか?」  夏休みが明け、同じ講義を取っていない日も僕たちは予定を合わせてはカフェに集まり、お互いの好きなものを教え合った。 「私は"羊雲"が好きです。青い空に秩序的にばら撒かれた白い雲。青と白のバランスにおいて、これより美しいものを見たことがありません」  彼女が答えて。 「僕は"飛行機雲"が好きです。青空を一直線に切り分ける、自然界ではあり得ない自然。人が作った自然の最高傑作だと思うんです」  僕が応えた。 「"0"が好きです。何もない、を表現することに、円を文字として用いる。その粋な発想が私にはないです」 「"100"が好きです。誰もがそこを目指し、ほとんどの人が届くことのない、惹かれ続ける終着点。僕もそこに惹かれている一人です」  目が開けられないくらい晴れた日も。 「"信号の止まった交差点"が好きです。深夜、もう人も車も通らない無法地帯。時間の停止した世界のようなモノクロ感が切ない気持ちにさせます」 「"道のない草原"が好きです。この星は人間のものじゃないということを思い知らされる圧倒的自然。その原初の表情はあまりに壮大で恐怖すら感じます」  声がかき消されてしまうほどの雨の日も。 「"ライオン"が好きです。王はただそこに在るだけで価値がある、というのを体現している真の王だからです」 「"シマウマ"が好きです。元は擬態としての縞模様で今や動物園の人気者という地位を確立している、その先見の明にはただただ脱帽です」  こだわりの髪型を嘲笑うような風の日も。 「"青"が好きです。空や海といった、この星の大部分を占める色味にロマンを感じます。きっと神様もこの色が大好きだったんでしょう」 「"赤"が好きです。太陽や熱さを感じるこの色には不思議な力を感じます。普段より力が発揮できるような、何かを成し遂げられる気持ちになります」  重ねる服の枚数を迷わせる曇りの日も。 「"子供"が好きです。何事にも縛られず自由な翼で駆け回れるからです」 「"大人"が好きです。何事も自分で決めて、自分の翼を自分で作れるからです」  東雲さんは僕に、僕は東雲さんに。  お互いの宝物をひとつずつ披露し合った。 「"生クリーム"が好きです。甘くて美味しいからです」 「"チョコレート"が好きです。甘くて美味しいからです」 「甘いものって美味しいよね」 「わかる」
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