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翌日の土曜日。
僕は駅前の時計台の下に立っていた。約束の15時には少し時間がある。
いつも東雲さんとは大学のカフェで待ち合わせをしているというのに、今日の待ち合わせはどうしてこうもそわそわするのだろう。
「早いですね」
「おわっ!」
突然の登場に僕は驚いて少し飛び跳ねた。
「ふふっ、驚きすぎじゃないですか?」
楽しそうに、ストライプのワンピースを纏った東雲さんは笑う。その笑顔にいつものように癒されて、僕はようやく現実味を感じた。
「すいません、びっくりしちゃって。って、東雲さんも早いですね」
「私、待ち合わせには早めに到着しちゃうタイプなんです。楽しみなことには足取りが軽くなってしまって」
東雲さんは言いながらステップを踏むように、右、左と地面を跳ねた。
「じゃあ少し早いけど行きましょうか。行きたかったお店があるんです」
彼女の行きたかったお店。
そこに一緒に入る相手に選ばれたというだけで、今日まで生きてきて本当に良かったと思った。
東雲さんご希望のパンケーキ店は、歩いて5分程の所にあった。
出てきたパンケーキは、よくこれで形を保てているな、というほど柔らかく、とろけるように甘い。
「う~ん美味しいです。美味です。いや、美しいという表現では足りません。もはや麗しいです。麗味です!」
東雲さんはうっとりとしながらよくわからないことを言っている。
しかし僕は特にそれについて言及することもなく、表情を綻ばせる彼女を眺めることに専念していた。
「今こそあのセリフを使うときかも……?」
「?」
「シェフを、シェフを呼んでください!」
「いやそれは待って!」
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