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僕には父親がいない。 正確には、本当の父親はいない。 僕の母親は、僕が小学校に入学した時に、父とは別の男の人の元へ、父を捨てて、僕を連れて家を出てしまった。 母は僕を連れて行ったけれど、すぐに僕を邪魔者扱いして、僕を狭い物置部屋に追いやった。 そんな僕が母から受けていた仕打ちは、すぐに近所の人に知れ渡り、先生達にも知れ渡り、同じクラスの子の親にも知れ渡り、そしてその親から子へ知れ渡り…… 僕は学校に行っても壮絶ないじめにあった。 どこにいても常にヒソヒソと陰口を叩かれ、汚いものを見るような目で見られて、同級生に罵られ、理不尽な暴力を受け続けた。 僕は何もしていないのに。 それに母の僕への虐待は、こんなに知れ渡っているのに、児童相談所の人が来ても、その証拠は出ず、誰も証言もせず、母も完璧に『良き母親』を演じきり、周りはみんな騙されて、僕に助けの手を差し伸べてくれる人は、誰もいなかった。 地獄のような日々 そのうちにもう、生きているのか、死んでいるのか、自分でもよく分からなくなって来て それでもただ、時間だけが過ぎ去っていった。 そして今 卒業式が終わり、誰もいなくなった夜の校舎に忍び込み、屋上の柵の外、そこに僕は一人立っていた。 全て終わらせるために… 僕が苦しむことのない、どこか遠くへ逃げるために… たとえ地獄でもいい。ここから解放されるならば。 このなんの救いもないこの世界ではなく、どこか遠くへ。 わずかでも光射す世界へ。 僕は目を閉じて、なにもないその空間へ、体を前へと傾けた。 真っ暗な空間に、僕はまるで吸い込まれて行くようだった。 目を閉じて 僕の記憶はそこで途絶えた。
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