13人が本棚に入れています
本棚に追加
目を開けてみた。
だけど、何も見えない。
暗くて何も見えないと言う訳ではなくて、どうやら目隠しのような、目を拘束するようなもので、視界を奪われているらしい。
ここは地獄ではないのか?
僕はあの時、学校の屋上から身を投げて、ここでは無いどこか遠くへ行ったはずだった。
でもここはその『どこか』ではないらしい。その証拠に、僕は椅子に座らされ、手足も拘束されている。
「気が付いたのかい?君には少し不自由な思いをさせるけど、必ず君が望む世界を、君が苦しまずに済む世界を用意するから。だからそれまで待っていて欲しい」
聞いたことのない、見知らぬ大人の男の人の声。
こんな体の自由も、視界も奪われているのに、この人の声はとても優しく穏やかで、全く恐怖を感じなかった。
だけど
この人の言う『僕が望む世界』とはなんのことなのだろう…。僕はこの世界に何も望んでいないし、この世界から消えたくて、ここではないどこか遠くへ行きたくて、屋上から身を投げたのに。
それに、もしあの時僕を助けたのだとしたら、この男の人は、僕の後をずっとつけていたのでは?なんのために?
「僕は学校の屋上から身を投げたはずなんです。あなたが僕を助けたのですか?」
「そうだよ。間に合って良かったよ、やっと君ために私が役に立てる」
男の人が近づいてくる気配を感じて、僕はそこで初めて少し恐怖を感じた。
ビクッと体を震わせると、男の人は
「怖がらせてしまって済まない」
そう言って、僕の頭を優しく撫でた。
その感触はずっと前にも感じた事があった、なぜだかそんな気がした。
僕をここに連れて来た目的が分からない不気味さはあったけれど、僕はもう一度死んだようなものだから、あっさりとこの状況を全て受け入れてしまった…。
こうして、僕とこの男の人との奇妙な生活は始まった。
最初のコメントを投稿しよう!