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どれくらいの長い年月が経ったのだろう。 何度か僕の座る椅子は、成長に合わせてサイズを変えて、服や靴も大きいものへと変わった。 髪の毛は定期的に男の人が切ってくれたけど、最近は面倒になってきたのか、それとも時間がないのか、短く刈り上げられていた。 大人になったので、髭も生えてくるようになっていた。 まさか、こんなに長くここに拘束されて、生かされるとは思わなかった。 でも、ここへ連れて来られたあの日、男の人は言った。 『君が望む世界』を用意すると。 それまで待っていて欲しいと。 つまりまだ『僕が望む世界』は用意出来ていないということなのだろう。 しかし、本当にどれくらいの時が経ったのだろう?暑くなり寒くなりというのを繰り返し、それを五回くらいまで数えたけど、そこから先は曖昧になってしまった。 誕生日でも祝ってくれれば、分かったのだろうけど、全く見知らぬ他人のこの男の人が、僕の誕生日なんて知る訳もないし。 だけど、髭が生えてきたりしているし、もう20歳も超えているのかもしれない。 そんなことを考えていると、外から帰って来たらしい男の人が、少し興奮気味に僕に話しかけて来た。 「もうすぐだよ。もうすぐ君が望む世界を、君にプレゼントするから。君の誕生日に合わせて…」 「!?」 この男の人、僕の誕生日を知っている!!! そして『僕が望む世界』が用意出来た!? 一体この男の人は何者で、僕の望む何を用意したのだろう。そもそも僕は何を望んでいるかなんて、一言も言ったことはないのに。 「随分と長く掛かってしまったけど、きっと喜んで貰えると思ってる」 そう言って、男の人は連れて来られたあの日と同じように、僕の頭を優しく撫でた。 何故だろう 僕はこの時、恐怖しか感じることが出来なかった… こんなにも長い時間、何ひとつ恐怖を感じずに生活してきたというのに…。 何故だか、この男の人が用意したという『僕が望む世界』が、恐ろしくて仕方なかった。
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