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その日はいつもと違い、なんだか周りが騒がしかった。 人が沢山建物の中に入って来た気配がした。 「離せっ!私はやっと、あの子の望む世界を用意する事が出来たんだ!あの子の誕生日の今日、プレゼントすると決めていたんだ!」 男の人が叫ぶ声が聞こえた。その後すぐ、僕のいる場所に沢山の人が入って来て、僕のそばにも二人、誰かやって来た。 「これは酷い…今すぐに解いてあげるから」 そう言って、傍にやって来た人物は、僕の腕や足を拘束しているロープを解いた。だけど、目の拘束具は取り外すのに、少し手こずっているようだった。 何が起こっているのだろう? あの男の人はどこにいるのだろう? 「あの子は何も悪くない!あの子は何も知らないんだ!だから、あの子は私が用意したあの世界、あの場所へ連れて行ってやってくれ」 「…やっと外れた。目が慣れるまで少し辛いかもしれないね」 僕の視界に淡い光が差し込んできた。 それだけでもチカチカして、全然周りが見えない…… でも、何度か瞬きをしているうちに、周りが見えてきて、部屋の入口辺りで警官に押さえ付けられている、中年の男の人の姿があった。 あの人が、ずっと僕をここで生かしていた人……え?あれは… 「お…とう…さん?」 「伸明!お父さんはな、やっとお前の為に、お前が苦しまなくていい世界を用意したんだ!お父さんに出来るのは、これくらいしかなかったから。お前をちゃんと守ってやれなかったから…」 かなり歳を取り、やつれた姿の父は、それだけ叫ぶと、後ろ手に手錠を掛けられて、警官に連れて行かれてしまった。 「あ…の、父は、一体なにを…?」 隣に立つ警官に聞いてみたけど、表情を曇らせて口を開こうとしなかった。 嫌な予感がした。 何か恐ろしい事が起きてしまった気がする。 僕は遅れて入って来た、救急隊員が用意した車椅子に乗ると、警官や救急隊員の静止を押し切って、部屋を飛び出した。 体中が痛かった。 何年も座ったまま、動けないまま過ごした。筋肉なんてものあるわけが無い。ただ、きちんと食事はさせてもらったから、痩せ細ったりしなかっただけ、まだ車椅子の力を借りて動くことが出来た。 父はさっき言っていた。 『僕が望む世界』が『僕が苦しまなくていい世界』が用意出来たのだと。 だとしたら、こんなにも長い年月を掛けて、父は何をしてきて、何を僕に渡そうとしていたのか!? こんなにも警官や刑事がやって来て、外にはマスコミも沢山いる気配がして、父は一体何をしていたのか!?手錠を掛けられたということは、どんな罪を犯してしまったのか。 酷く嫌な胸騒ぎが止まらない。 そして僕は、一体何をこんなに知りたいと思い、どこへ何を確認しに向かっているのか。 目的の場所に辿り着き、僕はその中へと飛び込んだ。 そこには沢山の警察関係の人達が、床や壁、調理器具から何かを採取しているようだった。その人達は僕の姿を見て、すぐに中の様子を僕に見せないように動いた。 だけどそんなのは遅いし、意味もなかった。 壁や床には、赤黒い汚れや茶色の染みが、至る所に飛び散っていて、もちろん異臭も放っていた。そして、部屋の隅には大きなゴミ箱があり、そこからは蓋も出来ないほど、何か白いものが溢れかえっていた。 あれは…… まさか まさか! それの正体が分かった瞬間、僕は絶叫して、その場に突っ伏して、胃の中のものを全て戻した。 頭の中に、ここに連れて来られてから今日までの記憶が、鮮明に蘇り、そして僕は…知らずに僕が犯してしまったおぞましい罪に耐え切れず、意識を失った…。
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