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僕の監禁生活が終わったあの、最悪の誕生日から幾ばくかの時が経ち、僕は父の弁護士という人と話せることになった。 「教えてください!僕は、僕はこの10年間、一体父に何を食べさせられてきたんですか!僕は…僕は…」 ずっと疑問にも不審にも思っていた。これは一体なんなのだと。でも、そう思っていても、拒絶出来なかった。死んでもいいと思っていたのに、拒絶した時に何が起こるかが怖かった。 「落ち着いて伸明君、君は君が思っているような事は何もされちゃいないから」 「じゃあ、僕が見たあの光景は?!父は僕が苦しむことのない世界をくれると言った、それは僕を苦しめたものを排除した、そういう意味なんじゃないんですか?!」 父は何か大きな罪を犯した。それも10年という長い年月を掛けて。だから捕まったのだ。 だけど、父が犯したその罪を、誰も僕に教えてくれない。 それは僕が思っているような、とても話せる内容ではないからではないだろうか。 「違うんだ。本当に君が考えているような事はしてないんだ。確かに、君のお父さんは…君の母親と今の君の父親の命を奪った」 やっぱり…父は僕を苦しめたものを、全て消そうとしたんだ… 「それも大きな罪には違いない。けれど他の人は…キミを苦しめた人達は全員無事だ。ただ、あの町からは追い出されたけれどね」 「全員無事…?では、父は10年もの長い間、一体何を?」 母と再婚相手の今の父だけなら、こんなに長く僕を監禁する必要もない。では、一体何をしていて、僕に何を与えようとしていたのだろう。 「これはね、もちろん無効ではあるけれど、君の名義の土地の権利書だ。あの町全ての、ね」 「け、権利書!?」 しかも、あの町全てのってどういう……まさか『君が望む世界』『君が苦しむことのない世界』って…… 「君の父親はあらゆる手段を駆使して、あの町の人全てを追い出して、あの町全てを手に入れたんだ。そしてそれを君に渡して、全てを成し遂げたんだ」 「そ、んな…じゃあ、今あの町には……」 「誰もいない。小さな町ではあるけれど、あそこまで完璧に君だけの、君のためだけの町にしてしまうとは…」 そんな… 本当に、僕が苦しむことのない世界を作っていたなんて。でも、誰もいない世界なんて、苦しみはないけど、喜びも楽しみも何もない、無意味な世界じゃないか! そんな事望んでいなかったのに。 そんな有り得ないような事するなら、僕を連れて逃げて、一緒に居てくれるだけで良かったのに。それに、あの監禁生活と僕が見たあの光景は、一体何の意味があったのか。 「…父が何をしたかは分かりました。だけどそれなら、どうして僕は、あんなおぞましい誤解をするような監禁生活をさせられていたのでしょうか」 「…君が自ら命を絶とうと思ったその時まで、自分を頼ってくれなかった事への苛立ち、憎しみが、君を苦しめたいという気持ちを生み出してしまったらしい。泣きながら申し訳ないと言っていたよ」 僕はあの時、本当は父を頼りたかった。だけどもう、父と僕は親子ではなくなったから、迷惑をかけるわけにはいかないと、子供ながらに思っていたのだ。 でも、あの時もし、父を頼っていたら、こんなことにはならなかったし、僕もあの監禁生活と父が用意した、あの光景のせいで、食べ物を一切受け付けない体にはならなかっただろう。 これもまた、何の抵抗もしないで監禁生活を受け入れてしまい、父を止めることが出来なかった、僕への罰ということだ。僕はそれを背負って生きていかないといけない。 僕は父の弁護士に頼んで、父が僕のために用意した『僕が望む世界』を見せてもらった。 誰もいない、静寂が支配する世界 確かにみんな居なくなればいいと、あの時は苦しみから逃げたくて、そんな事を思ったけれど… 本当の『僕が望む世界』はこれではない 父がいて、母がいて、そして僕を取り巻く沢山の人達がいて、楽しい事も嬉しい事も、辛い事も苦しい事も色々あって、あたたかく命ある世界。 それが『僕の望む世界』 僕はもうあの日のように逃げない。 遠くへ、遠くへと、ありもしない世界を求めて逃げるのはもう終わりだ。 僕は一生をかけて、僕が背負った罪を償おう… この命失ったこの町が、また命ある世界を取り戻せるように…
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