人の性《さが》と国の崩壊

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   第一章 「人嫌いの少女」   2018年11月。東京にある私立高校では文化祭に向けて準備が進められていた。1年5組の教室はいつものように、20人の生徒の話し声がどこからでも聞こえてくるという状態だ。  楽しそうにしゃべる同級生を一切無視し、一番後ろの席に座ってひとりで本を読んでいる少女がいた。この話の主人公、二宮(にのみや)あかりである。  ショートカットの黒髪に卵形のワインレッドのめがね、濃いグリーンのリボンタイ。父親と同じ切れ長の茶色い瞳をつむり、本を読み進める。  彼女の隣に座っていたいがぐり頭の男子が、数人の男女と好きなゲームの話をしている。「アクションがすごく気持ちいいんだよな~、主人公も自分の好きなように作れるし」「そうだねー、私も買いたい」「俺もやってみたいんだよな、それ」  彼らの声はだんだん大きくなり、あかりのところまで聞こえてきた。彼女は 自分の席を立ち、彼らのところまで近づいてから低い声で言った。  「お話中悪いけど、静かにしてくれないかな。気になってしょうがないから 本が読めない」それだけ言うと、静かに自分の席に戻る。  「何あいつ、嫌いだな~」という声が聞こえたが、無視して教科書を開き、 聞こえないふりをした。  その日の放課後。靴を履きかえていると、「二宮」と誰かに名前を呼ばれた。休み時間にゲームの話をしていた男子だ。  「ごめん。俺好きな物の話になるとつい声が大きくなっちゃうんだよな。 親にも注意されてて、気を付けようとは思ってるんだけど」と言う彼の顔には、申し訳ないという気持ちが表れていた。  「私も少し言い方がきつかった。本を読んでる時しか、幸せを感じなく なっちゃってる」とつぶやくあかりの瞳がかげる。「二宮?」と心配そうに 聞く彼に「ありがとうね清水、声かけてくれて」と手を振りながら校門を出ると、あかりは家に向かって走った。  
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