柊の花

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柊の花

   目覚まし時計が鳴り、今井遥は目を覚ます。窓を開け、カーテンを開いて部屋に風を取り入れる。甘く香るのは柊の花。冬の冷たい足音が、もうすぐそこまで来ているようだった。  遥は伸びをし、ベッドから足を下ろす。ホットパンツの太腿から覗くのは大きな傷跡。盛り上がったピンク色の肉片が、セルロイドのように固まっている。  洗面所に向かう途中、着信が鳴った。遥はテレビを点け、ベットに腰を掛けながら携帯を手に取った。 「遥?お母さんだけど」 「おはよう、どうしたの?」 「昨日、カボチャの煮物とキノコの炊き込みご飯作ったんだけど、あんたこってで夕食食べるでしょう?」 「食べる!」  テレビでは朝の占いをやっていた。 「今日のメニューは里芋の煮っころがしよ。あんた、里芋好きだったでしょう?」 「そうだったっけ?」双子座のランキングは2位。ラッキーアイテムは文庫本、ラッキーカラーはブルーだった。「じゃあ、後で。煮っころがし、楽しみにしてる」  洗面台の前、歯ブラシ立てには緑と青の歯ブラシが刺さっていた。遥は朝の占いを思い出し、青色を手に取った。今日の順位は2位。朝から何だか、良いことがあるような予感がした。  天気は晴天、遥はシーツ、枕カバー二枚を剥がし、昨日の汚れ物を洗濯機に放り込むと部屋の掃除を始めた。  朝の支度、掃除を終えたら机に座り、日記帳を読む。昨夜の自分を、朝の自分が確かめる。面白くも、歯痒い瞬間だった。  今日の予定は定期検診にリハビリ。遥は手帳を捲りながら、実家に寄るならパン屋でお土産を買おう、駅前の本屋でお母さんが好きそうな雑誌を買ってあげようと、そう予定を立てた。  洗濯が終わり、遥がキッチンを横切る、その視界にふとした物が目に入る。  シンクに青いマグカップが一つ置いてあった。遥は洗い物を、その日の内に片付けるのが習慣だった。だから、シンクの中、ぽつねんと取り残されたそのマグカップを不思議に思った。しまい忘れていたのだろうかと、遥は呑気にそう思った。
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