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咄嗟に胸を押さえてしまったメルは、突進してくるグリードを避けることができない。
寸前、キャンティーの槍と斧が合体した武器『春バード』が、グリードを貫いた。
「大丈夫?後は私に任せて、休んでてもいいわよ」
「大丈夫。まだ戦えます」
「無理はしないでね!」
これだけ戦ったにも関わらず、息も切らさないキャンティーを見て、
─まだまだ敵わない
メルはそう思った。
さらに一刻がたった。
メルの前には足を切られ、もがきながらも命を奪おうと、牙を向くグリードが横たわっていた。
「意外と手間取ってしまったわ。憐れ……これで最後。」
メルが剣を振り上げた瞬間、「ドクンッ」と今までで最も大きく心臓が跳ねた。
─本当に最後かしら……?
「あうぁッ」
メルは思わず剣を落とし、胸に苦しそうに手を当てて地面にうずくまる。そして、そのまま動かなくなってしまった。
「メル!大丈夫!?」
キャンティーが慌てて駆け寄る。その時。
「うああああああああッ!!!」
メルは突然狂ったように叫びだした。そして上半身を天に向け、固まった。
「なんなの……これ?」
天に向け大きく開けられたメルの口から、黒い煙のようなものが止めどなく立ち昇る。メルは既に気を失ってしまっている。
その煙は一点に集まり、徐々に人のような形へと姿を変えていった。そして、
「ふぅ……。やぁっと我の出番か」
そう言って、女は現れた。
女は闇の中で妖艶に光る赤い目を持ち、口元から犬歯を覗かせ、全身を黒装束に身を包む。そして、その帽子からは美しい銀色の長い髪が揺れている。
「いきなり出て来て、あんた何者よ?」
キャンティーはただならぬものを感じ、すぐさま戦闘体勢をとる。
「我か?我の名前はマドレ。お主らがいう魔女ってやつよ」
殺気を放つキャンティーを見ても、魔女はどこか愉快そうに嗤っている。
「楽しそうね。何が目的なのかしら?」
「ずいぶんと質問の多い小娘よのぉ。まあよい、我は目の子を探しておる。お主知らぬか?」
「希望の子……?知らないわね。まあ、知っていても教えないけど」
マドレという名前。言葉とは裏腹に、キャンティーには心当たりがあった。
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