11人が本棚に入れています
本棚に追加
ep.1 はじまりの光【魔女】
*
魔女の登場によって、戦況は逆転した。キャンティーと魔女の戦闘は、既に一刻も続いていた。
─なんて強さなの……
息を切らすキャンティーとは対照的に、魔女は余裕そうに嗤みを浮かべている。
「そろそろ教えたらどうだ?お主が何か知ってるのはとぉーっくに気づいとる。教えさえすれば、命だけは助けてやる」
ゆったりとした口調とは裏腹に、その顔に苛立ちを浮かべている。
「誰が教えるもんですか」
キノが守ろうとしているものを易々と教えるわけにはいかない。キャンティーは強がりをみせる。
「ほぅ……よっぽど死にたいらしいな。では、望み通り殺してやろうッ!」
魔女の上空に黒い雲が渦巻き、そこから無数の漆黒の剣が現れた。
「《ヤミノムラクモ》!」
魔女がそう言うと、無数の剣が深界では降るはずのない豪雨のごとく、一斉に降り注ぐ。その範囲は、今尚気絶しているメルや他の隊士をも、巻き添えにしてしまう程に広大である。
「皆、あたしの近くによりなさい!負傷している者は担いできなさい!」
キャンティーはそう叫び、そして心の中で覚悟を決めた。
─あたしはここで死ぬだろう……。でも、キノにとってのルーのように、一番隊士達は私の希望。必ず、守ってみせる!
キャンティーは春バードの柄の中央を両手で持ち、天に捧げるようにしてかかげる。そして、そこを中心として回転させ始めた。
「うおおおおおおッ!!《春バード操術参式 ハルノカギリ》!!」
キャンティーによって回転させられた春バードは光の傘となり、無数の剣から隊士達を守る。
「なかなかやるではないか。どちらが先に力尽きるか、根比べする気だな……面白ぃ!これならどうだ?」
魔女が不敵な嗤みを浮かべそう言うと、剣の雨はより一層激しさを増す。
「まだこんな力が……。でも、伊達に五十年も生きてないからね。根比べで負けるつもりはないよッ!」
少しでも気を抜けば死ぬという極限の状況下で、なぜかキャンティーは三十年前にデートで、キノに四時間も待たされたことを思い出した。
─これが走馬灯ってやつか……いや、そんなの絶対に嫌!
四十年前の出来事に対する怒りが、キャンティーに力を与える。
「たかだか五十年生きただけの分際で、千年の時を生きた魔女に逆らおうと言うのかッ!?最大パワーを喰らえ!」
キャンティーと魔女との攻防は、始まってから既に二十分を過ぎようとしていた。
最初のコメントを投稿しよう!