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―――うん。そうだ。無視してしまおう。
目の前の生き物は何かを探しているようだが、気にしてはいけない。
私の好奇心が若干うずくが、第六感が「関わるな!関わってはいけない!」という危険信号をすさまじく点滅させている。
私は気にしてない風に青いボールの生き物の横を通り過ぎようとした。
「おい、あんた」
うわっ……あの青玉、声もかわいくなかった。
この誰もいない道端、間違いなくあの生き物は私を呼んだに違いなかった。
「この辺に住んでる人だろ?ちょっと探してるものがあるんだけど、聞いていいか?」
このまま無視してしまおうかとも考えたけど、さすがに相手が人ではないとはいえ気が引けてしまった。
「あー……。はい。一応、小さいころから住んでますので、わかることでしたら案内しますよー」
ちょっと面倒という気持ちが雰囲気に出てたらしい。
眉間にしわを寄せ、ギロリとその青玉はこちらを睨んだ。
うぅ。可愛くはないと思ってはいたけど、それ以上に小さいくせに迫力があって怖い。
「う、あ、その……この辺って、最近区画整理?てのがあったらしくて、私も住んではいるんですが、前とだいぶ道が変わっているんで、そういう意味でわかるかどうかというわけで……」
慌ててそう言いなおすと青玉はため息をついてこっちを見た。
「別にいいけどよ。別にあんたを脅してどうしたいわけじゃないし。ただ俺も久々に知り合いに会いに来ただけだしな。」
顔は怖いし口はあまりいい方ではなさそうだけど、どうやらこの青玉は悪いやつではないようだ。
それより今、知り合いに会いに来たとか言っていたが昔ここら辺にいたことでもあるのだろうか。
「あ……えっと。誰かを探してい」
「なあ、このあたりに公園あったらだろ?あれ、なくなったのか?」
脅すとかはしないが、手伝わせる気は満々なのか……。
こいつなんだかんだで人の話聞かず押し切るタイプだ。
まぁ、こっちも少しこの生き物に興味が出てきたので少しぐらい手伝うのも悪くなさそうだ。幸い、時間には余裕があるわけなので。
それにしても、公園……
「確かに、区画整理があるまではここに公園ありましたね。今は御覧の通りですけど。」
私が小さいころにはよく遊んだ公園。
ブランコと滑り台、砂場と鉄棒といったこれといって、大はしゃぎするようなものはないがごくごく普通の田舎の公園。
今はコンビニオーナー募集中の張り紙がさびしく張り付いた建物と駐車場があるだけだ。
青玉は、その建物を見て寂しげにため息をついた。
「そっか……そうなると、そこにあった木も切られちまったのか……」
「あぁ、公園に会った大きな木」
私も言われて思い出した。
小さいころ、その木の周りに落ちていたドングリを拾った大きな木。
公園のシンボルと言わんばかりに立派に立っていたのだが、あれも根こそぎ切られてしまったのだろうか。
「そういえば、ないですね。」
その木と何か関係があるのか
青玉はぼそりと
「おっかしいなぁ。あいつ……まだ生きているはずなんだけどなぁ」
などとつぶやいていた。
あの大きな木とこの青玉の知り合いは関係あるのだろうか。
……いや、もしかしたらそれこそその木に住む不思議なお隣さんと知り合いなのかもしれない。
ゴム玉のような生き物の知り合いとなれば、人間ではない可能性が高い。どんな姿なのかどんな生き物なのかすごく、すっごく気になる!
「あの、もしよかったら探すの手伝っ」
「あー、そうか。区画整理とか言ったよな。なあ、この辺に新しくできた公園あるか?」
そうだった。こっちから言わなくても、この青玉は手伝わせる気満々なのすっかり忘れていた。
「えーっと。あったようななかったような。何せ私も近くをそこまで散歩したりしないので記憶があいまいですねー。一緒に歩きながらなら思い出すかも」
このまま相手のペースなのは正直腹が立つし、このまま場所を教えたらきっと「サンキュー。バイバイ」で終わりそうな気がする。
ちょっと失礼かもしれないけど、向こうは話を聞く気がない青玉だ。
ちらちらを青玉の顔色をうかがいながら言ってみると、青玉は文句を言うでもなくケロリと答えた。
「別に付いてきてくれていいぜ。俺も今のこの辺りは全くわからないからな。」
案内してもらえて助かったと青玉は笑った。
うーん、笑えばちょっとは可愛いかも?
そう思ったのもつかの間、どうやらそう思ったのがバレたのか青玉がふと真顔に戻ってこっちをギロリと見てきた。
「そうと決まれば、早く行こうぜ。こっちは急いでいるんだ。」
いや、まだ時間が少しあるといってもこっちもこのあと学校の授業があるんですが……
とはいえ、そんな話をこの青玉が聞いてくれるとは思えないので、仕方なく私の記憶にある限りの公園らしき広場をこの青玉と共に目指すことになったのだった。
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