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青とおおきな木
例えば不思議の国のアリスの時計ウサギであったり、田舎に越してきたらとなりの山に住んでいるという夜にはオカリナを吹いている森の妖精だったり。
架空の生き物というかファンタジーの世界に導いてくれるような動物というものは可愛いものが多い。少なくとも私が知っている限りではそうだと思っているし、そうであってほしいと思う。
それにそのファンタジーな世界に迷い込むような主人公というやつは、幼い女の子であるべきだと思ったりするし……いや、私だって小さいな頃はそんな不思議体験してみたいと思ったことがあったのは事実。現に母方の実家に行ったときはそんな生き物が……オカリナを吹いているほうがいると思って探しに行ったこともあった。
だからとはいえ、とりあえずで入った短大でさぼるわけでもなく、でも大した目標があるわけでもないけど不器用なほどまじめな性格ゆえに単位を落とさないように勉強しに行っているそんな中途半端な女子大生の私――春野緑里がそんな主人公に今更なり得るはずはない……ないはずなのだが……
夢でも幻でもなく、私はその生き物と通学途中の道端で出会ってしまった。
いや、生き物……と、言っていいのだろうか?
どう見てもゴムボール……そういえば、最近流行っていると言ってお母さんが買ってきたあのバランスボール、サイズ的にはあれが近いかもしれない。あれに手が生え、足がくっついたような生き物が目の前を歩いているのだ。
そう説明すると形状は可愛らしい気がするし、現になんかのアニメかゲームでピンク色の同じシルエットのキャラクターがいた気がする。
でも、目の前にいるのはそんな可愛い生き物ではなく……いや、形は可愛いのだが目つきが鋭くいささかその体とのバランスが悪い。いや、もうはっきり言ってしまおう目つきが悪くてそのせいでぜんぜん可愛くないのだ。
そんな謎の生き物が辺りをきょろきょろしながら、こっちに向かって歩いてきている。
昼間なのに非常に不思議なこと……いや、よく考えてみたらこの時間帯はちょうど一般的な通勤通学時間からズレているし、お昼の散歩の時間には少し早いわけでお店も何もない住宅街ではあまり人がいないのは当たり前なのかもしれない。
午後からの授業しかないけど、お昼だけ学食のスペシャルメニューが食べたいなどと、いつもとは違う半端な時間に家を出てきたらこの有様である。
普段しないことをするものではないな。
とはいえ、今の状況は確かに不思議な生き物に出会ったという状況だがよく考えてみれば無視してしまえば問題ないのではないか。
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