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マンションの窓際に置かれた広い極ふわのベッドの上。
カーテンの隙間からは、柔らかな陽光が優しく降り注いでいる。
そのお陰で、今は十一月だというのに、春のようにポカポカしてて、まるでひだまりのようだ。
あんまり心地いいから、私はお布団から出たくなくて。
サイドボードの上で『速く起きろ!』とばかりに、けたたましく急かしてくるスマホに、無視を決め込みたくなる。
……起きなきゃいけないのは分かってるの。
でも、あと、もうちょっとだけ。もうちょっとだけでいいから眠らせて。
頭のなかでムニャムニャ言いながら、欲求に勝つことのできない私は、再び暖かなお布団の中に潜り込んだ。
そんな私の代わりに、スマホのアラームを黙らせてくれたのは、愛しい愛しいタカシくんだった。
「こーら、アキ。そんなにくっつかれたら起きられないだろう?」
「……だってぇ、くっついていたいんだもん!」
「……そんな可愛い表情したってダーメ! 離してくれなきゃ遅刻しちゃうだろう?」
「………」
……そんな言い方なくてもいいじゃない。
そう思っても言うことはできないから、こういうとき、私はシュンとして、黙りこむことしかできない。
朝からうっとうしいとか思われたくないんだもん。
それにタカシくんは、朝に弱い私と違って寝起きがいいだけじゃなくて、全然甘くないのもいつものことだし。
言葉は優しいけど素っ気ないのも、いつものことなのだ。
ところが、昨夜は、珍しく酔っぱらって帰ってきたタカシくん。
『眠いから先に寝る』と言ってる私のことなんて完全無視。
くっついて甘えてきて、私のことを離してくれなかったクセに。お陰で私は寝不足だ。
……もう、ほんと勝手なんだから!
と、まぁ、色々言いたいことはあるんだけど……。
それでもタカシくんのことが好きなんだからしょうがない。
ーー例え、タカシくんが私のことを好きじゃなくても。
こうして毎朝、タカシくんの暖かな腕の中で目覚めることができるだけで、私は充分幸せだから。
……あっ、いけない、私も起きなきゃ。
お布団からジャンプする勢いで飛び起きた私は、タカシくんの後を追ってリビングへと駆け出した。
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