妾の子

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 小学校に行くようになると、なにかにつけて嫌がらせをされた。おとなしく、きゃしゃだった私は、イジメのかっこうの標的だった。たまに鬼ごっこに混ぜてもらえても、ずっと鬼の役だった。 「おまえ、お二号(にごう)さんの子供だろ。だから、(おに)にしかなれないんだよ」  同じマンションに住む男の子から投げつけられた侮蔑で、私は自分の立場を知った。  母は、いつも私のそばにいてくれた。学校で嫌なことがあっても、母に話を聞いてもらうだけで、心が軽くなった。  子供ながらに、きれいな人だと思った。学校を出たばかりの担任の教師よりも美しく、優しかった。もちろん、マンションで他人の穿鑿(せんさく)ばかりする母親たちよりも、ずっと。  私が学校から帰りつくと、母は目の前でホットケーキを焼いてくれた。パウンドケーキのときもあれば、ドーナツのときもあった。焼きたてのクッキーに手作りのプリン。夕食もきちんと食べることができるよう、適切な量を毎日毎日こしらえてくれた。  そのころになると、父と風呂に入ることもなくなった。第一、家に来ることがなくなった。  今ならわかる。ちょうどその時分、父の事業は波に乗り、どんどんと会社が巨大化していたのだ。若手実業家として顔も売れ、世間の耳目を集めていた。  だから、スキャンダルをおそれ、母のもとから足が遠のいたのだろう。  いや、もしかすると、そのあとに起こったことを考えるなら、もう母に魅力を感じなくなっていたのかもしれない。
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