そうして最後の赤が朽ちるまで

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そうして最後の赤が朽ちるまで

記憶に一番残っているのは何故か赤い爪だった。 体のほとんどが腐蝕し、骨が露出しているところも少なくない。 生きていた頃は鱗がひしめきあい、輝いていたかもしれない尾ひれも今はただの黒褐色の塊だ。 しかし指だけは生きている頃の面影を残していて、その爪には丁寧に赤いマニキュアが塗られ、鮮烈な色を持っている。 体感温度の低い風が吹き、頭蓋骨に張り付いている白髪がなびいた。 強烈な腐臭が鼻をついたのに、そこからしばらく動けなかった。 僕が生まれてはじめて見た人魚。人魚の腐乱死体。 それは学校の裏側の森、淀んだ沼の縁で、こうしている今も無に向かっている。 「あっただろう、人魚の死体」 淀んだ曇り空の下、微熱に浮かされたような足取りで大学の研究室に戻ると、先輩はいつものように禁止されている煙草をどうどうと吸っていた。 「ありました。本当だったんですね」 俺は嘘は言わねぇさと言いながら先輩は白い煙を吐き出した。 それから先輩と僕はしばらく黙っていた。 僕はどうしても聞きたいことがあったが、上手く言葉がでない。 煙草から灰が落ちていく。 「人魚を殺したというのも本当ですか?」 やっとのことで聞いた僕に、先輩は引き攣ったように左口角を上げると言った。 「ああ、俺が人魚を殺した」
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