そうして最後の赤が朽ちるまで

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古めかしいポラロイドのシャッターを押すと、かしゃ、じじじと音がした。 カメラから出たまだ黒いままの写真を光から避けるように裏返す。 この写真には徐々に人魚の腐乱死体が浮かび上がってくるはずだ。 腐臭にむせながら様々な角度で写真を撮る。 その間、沼は灰緑色に濁っていて、のっぺりとしていた。 八枚のフィルムを使い切ると、途方にくれたように立ちすくんだ。 先輩は研究室で乱雑に自分の鞄を漁ると、このポラロイドを渡して言ったのだ。 人魚の写真を撮ってきたら、殺した理由を話すよ、と。 僕はその提案を断れなかった。 「こりゃひでぇな」 僕が渡した写真を見ると、自分が頼んだくせに先輩は眉間に皺を寄せた。 生き物は死ぬとこんなになっちまうんだな、とひとり言のようにつぶやく。 そのうち一枚の写真に目を止めて、じっと見つめていたが、やがて顔を激しくゆがめた。 震えた指先から写真がはらりと落ちる。 写真にはあの赤い爪をした人魚の手が大きく写っていた。 先輩はかがんで写真を拾ったが、その顔色が妙に黒ずんで見えた。 「話してやるよ、どうして人魚を殺したかを」
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