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プロローグ:ただのオタクと地味なヒロイン
放課後の視聴覚室。
普通の高校ならまずは使われることのないであろう無駄なスペースに、とあるサークルのメンバーたちが陣取って作業を行なっている。それぞれがノートパソコンを持ち込み、機材室から勝手に延長コードを持ち出して私物化し、無駄に学校の電気料金を底上げしていた。だがしかし、どのメンバーを口を開くことはほとんどなく、無駄にカタカタとキーボードを打つ音だけが、静寂に満ちた視聴覚室に虚しく響いていた。
「どうだ?」
「……物語の構成としては問題ないけれど、やっぱり君の作品には波がないね。例を出せば、ここの部分。ここは物語の大事なクライマックスなのに、やけに地の文が主役になっている。主人公やヒロインの会話が途切れ途切れになっているから、なかなか読者には臨場感が伝わらないよ」
「そうか……」
サークルの仲間に指摘され、オレはトボトボと決まってもいない自分の席へと戻り、長考を強いられることになった。
そう、オレが指摘されていたのはノートパソコンで作成したライトノベル。それをサークルのアシスタント役である氷川優に木っ端微塵に切り捨てられたという状況だった。
「玲くんの文章のセンスは悪くないんだけどなぁ。どうしても有村さんや桐ヶ谷先輩の文章と比べると、細かいスタッツに目がいってしまうんだよ」
小さく腕組みをしている氷川だったが、その表情は全く悪びれる様子はなく、むしろ偉そうに上から目線で発言している、側から見たらめちゃくちゃ腹の立つ顔をしていた。アシンメトリーの茶髪は、毎朝ちゃんとセッティングをしてきているらしい。一体どれだけの時間をかけているのかと思うが、ものの数秒で整う自分の黒髪短髪もどうなのかと思ってしまう。
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