プロローグ:ただのオタクと地味なヒロイン

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「大丈夫よ、玲くん。クリエイターというものは、常に挫折と孤独を強いられて成長するの。でも、あなたは決して一人じゃないわ。壁にぶつかってしまったときに、頼りになる仲間がいる。そう……この私の胸に飛び込んでいらっしゃい! 私なら、あなたの才能をこれほどまでにないくらい引き出して見せるわ! だから、玲くんは安心して私に身を委ねて……色々とたくさんのことを教えてあげるわ」 「アドバイスするフリして、なーにちゃっかりと自分のルートに入れようとしているのよっ! 第一、今どき先輩ルートなんて存在するわけないでしょ!? 黒髪ロングのヒロインなんてありきたりな設定なんか、一昔前の設定よ」 「あら、その割には17年も幼なじみをやっていて全くフラグの1つも立っていないのはどちら様かしら? しかも、幼なじみのヒロインという咬ませ犬のポジションが主人公を勝ち取るなんて、なかなか聞いたことないわね。それは、あなたに魅力の欠片もないことを証明しているということではなくて?」 「ぐぬぬ……」 「むむむ……」  才能の塊と言うべきか、それともプライドの塊と言うべきか、千尋と美鈴先輩はサークル発足以来、このような感じの関係が続いている。2人とも確かな実力を持っているため、お互い切磋琢磨をしていけば更なる成長が見込めると思うのだが、なぜか毎日のように、こうして争い事が絶えないでいる。 「ツンデレな幼なじみとヤンデレな先輩との三角関係! これは同人ゲームとしてはなかなかない展開ですねっ! これは次の作品のキャラクターたちの参考になりますっ。ふふっ」  2人のやり取りを遠巻きに見ていた円華ちゃんは、何かを思いついたようにノートパソコンのキーボードをものすごい勢いでタイプし始めた。正確に言えば、円華ちゃんはラノベ を制作しているわけではなく、同人ゲームのネタを羅列しているのだ。ラノベ とは世界が違うが、サークル発足の頭数として、氷川に声をかけて入会してもらった経緯がある。 「千尋も美鈴先輩も、毎回同じようなことでケンカしないでよ。千尋のラノベ は世の中の誰もが認めている小説だし、美鈴先輩はクリエイターとしてだけじゃなくて、有数のピアニストなんだからさ。こんな2人と一緒のサークルで活動できているなんて、オレは誇りに思うよ!」 「玲……」 「玲くん……」 「……良いかい円華。これが俗に言う、一気に複数のルートに入れようと八方美人な対応を繰り返し、結局はどこのルートにも入ることが出来ずに夕方の河岸で独り言を呟いて終わるという、一番つまらないエンドだよ」 「ふむふむ……と言うことはつまり、このままいくと、幼なじみルートにも先輩ルートにも入らずにバットエンドになるってことだね。つまり、玲先輩はヘタレ主人公ってわけですね!」 どこかの兄妹に悪口を言われている気がしたが、2人のことをリスペクトしているオレからすれば、大した問題ではなかった。
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