プロローグ:ただのオタクと地味なヒロイン

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「君がヘタレルートに入ることはさておき、今の玲くんに必要なものは何なんだろうね。文章力としては良いものがあるんだけど、創造力が足らないというか、やはり経験値の問題なのかな」 「そりゃそうでしょ。あたしや桐ヶ谷美鈴と違って、玲はまだ処女作すら出してないのよ? そんな素人に毛が生えた程度のガセクリエイターに、クオリティを求めるなんて無理があるでしょ」 「色々とアシスタントに言いたいことはあるけれど、経験値と創造力というのは賛成ね。具体的に言えば、実際に体験してみないと分からないことがある。萌え萌えのヒロインとか、爆裂ロリータ系ヒロインとか、そういった女の子が身近にいないことには始まらないわね。玲くんのコンセプトが定まっていないのではないかしら」 「……あんたら、さっきまで歪みあっておきながら、こういうときだけ一致団結するのかな」 「そりゃあ、これでも僕たちはそれを仕事としているからね。有村さんはれっきとしたクリエイターだし、桐ヶ谷先輩はあまり執筆はしないけれどピアニストの世界の第一線で活躍している。僕も有名なクリエイターのアシスタントとして動いているから、こう見えてもお互いの実力は認めているつもりだよ。不本意ながらにもね」 「うぐっ……」  悔しいことに反論できないのが、このサークルの実情であった。氷川はとある有名なクリエイターに才能を買われてアシスタントとして働いているし、千尋はそれこそ次回作を着々と練っている。美鈴先輩はピアニストの第一線で活躍しているし、円華ちゃんも同人ゲームを作る上で必要な画力や創造力を持っている。このサークルを生み出した本人が一番才能がないことを、まざまざと見せつけられていた。 「……ちょっと休憩してくる」  才能という生まれ持った差を見せつけられたオレは、とぼとぼを席を立ち後ろの扉へと重い足取りで向かっていく。美鈴先輩や円華ちゃんがすれ違いざまに何かを言っていたような気がしたが、今のオレの耳には入ってこなかった。
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