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重い足取りで視聴覚室を出たオレは、自動販売機でコーヒーを買い、中庭にあるベンチへと腰掛ける。そしてそのまま瞳を閉じて、これからの作品の方向性について考える。と言っても、千尋に指摘された通り素人に毛が生えた程度のオレでは、いきなり良いアイディアなんて出るはずがなかった。
「だいたいそもそも、あんな化け物たちと一緒のサークルで活動しているってこと自体がとんでもないことなんだよな。千尋と美鈴先輩は見ての通りだし、氷川だって有名なクリエイターに才能を買われてアシスタントやってるし、円華ちゃんも兄貴の背中を見て育ってるせいか、最近はどんどんと力を付けてきているからな……才能がないのはオレだけか」
一人でブツブツと虚しく呟いているが、始業式だけでほとんどの生徒が下校した昼下がりの校内には、そんな独り言を訝しむ人間は誰もいなかった。
たまたま今日は千尋も美鈴先輩も氷川も自分の仕事が無かったからサークルに顔を出しているが、サークルメンバー全員が顔を合わせるのは珍しいことだった。円華ちゃんもオンライン上で同人ゲームを制作する同士がいて、そちらのサークルの活動を優先することも多いため、オレ一人で視聴覚室を占領して活動している日も少なくなかった。
それでも週末になるとどこからともなくオレの部屋にメンバーが集まり、サークル活動を行っているのだから、毎日メンバーの誰かしらとは顔を合わせていることにはなる。
「あの〜、鳴海くん」
「こんなにラノベ を愛し、部屋の本棚から教科書類をすべて排除してラノベ オンリーにし、タペストリーやフィギュア、DVDなどを部屋の至るところに配置し、年2回のコミケに欠かさず参加していても、まだまだあの人たちの足元にすら及ばないということなのか?」
「あの〜、鳴海くん」
「いやっ、オレは断じて認めないぞ! こんなにラノベを愛し、千尋の作品を一番先に読破してブログで布教宣伝しているこのオレがっ、同じようなラノベ を作れないはずがないっ!!」
「自分がオタクだってことを恥ずかしげなく暴露できるのは凄いことだと思うけど、私の話を聞いてくれると、ちょっと嬉しいかなぁ」
「んん!?」
ふと我に返って振り向くと、そこには見知らぬ女子生徒が1人、オレのことを見下ろすように立っていた。
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