琴音のプロローグ

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琴音のプロローグ

「絢音ちゃん?」 お茶の時間、母は猫なで声で の名を呼んだ。テーブルには、お菓子と、紅茶。優雅なアフタヌーンティーの時間だった。 つまり、絢音にとってはだ。 絢音が澄ました母の顔を見る。この場が絢音の為に用意されたことを察したようだ。 絢音が物言いたげに琴音を見る。琴音は母親と共犯では無いことを示すために首を横に振った。絢音の好物ばかりの高級なスウィーツが並ぶ。 これを前に、絢音はこの場に腰を下ろす事を母親は知っている。 「いいお話があるのよ?」 「結構です」 「そんな事言って、何度目なの? もう、今日という今日はそれは許しませんよ」 母親の有無を言わせぬ声のトーンに、当事者ではない琴音は、カップを手に取って口に運ぶ。口に含んだだけで分かる、お客様用の美味しいお茶は、お手伝いさんもグルだということを実感するものだ。 「お付き合いしている人はいるの?」 「いません」 「いつ、ご結婚されるおつもりなのかしら?」 「えー…と…いつかなあ…いつか…?」 「そんないつになるか、わからないようなこと、待っていられません!」 琴音は美味しいお茶にうっとりと、二人の会話を他人事のように聞いていた。最も、他人事なのだから。琴音に取っては美味しいお茶と美味しいケーキの幸せな時間だった。
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