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夢のメッセージ
ハレムイアの父アメンナクテの一族は、先祖代々職人の家系で、テーベの職人長を務める名門の家柄だった。アメンナクテは頑固者だが、エジプトの伝統芸術を忠実に継承する職人で、神殿の神々の石像やレリーフを数多く手がけてきたエジプトきっての名職人である。
アメンナクテには長男のハレムイアと次男のパシェドという二人の跡取り息子がいたが、アルウの父親であるハレムイアとは芸術に対する考え方の違いでいつも対立ばかりしていた。やがて激怒したアメンナクテはハレムイアとパシェドを勘当し親子の縁を切ってしまった。
二人の跡取りの息子を勘当し、妻にも先立たれて孤独になったアメンナクテに、さらに追い打ちをかけるように不幸が襲った。
テーベ職人長の座を狙っていた親族のパネブが、神官や弟子を使ってアメンナクテの作品に細工し、大神官の目の前で神々の像が崩壊したのだ。
パネブの陰謀はまんまと成功し、アメンナクテは職人長の座を奪われてしまった。
絶望したアメンナクテは人里離れた村に移り住み、人々の前から姿を消した。
ハレムイアはアルウの誕生を知らせ、父と仲直りしようと思っていた。ところが仕事が無く軍隊に入ったハレムイアは、戦地にかり出され、父アメンナクテに会うことが出来ないでいた。
三年後、アルウに妹ムテムイアが生まれるとハレムイアの家はさらに賑やかで明るくなった。
「アルウを職人にしよう」
ある日、ハレムイアはヘヌトミラに自分の考えを打ち明けた。
「わたしもそれがいいと思います」
アルウは感性が鋭く感受性が豊かだったので、ヘヌトミラは即座に賛成した。
こうしてアルウは王宮付属の職人学校に通うことになった。
アルウが毎晩、不思議な夢を見るようになったのはその頃からだった。
夢の中でアルウが砂漠を彷徨っていると、どこからともなく声がして彼に命じるのだ。
「黄金のオシリス像を探せ」
声は優しくも威厳に満ちていた。
「あなたは?」
「余はオシリス」
「オシリス、その像はどこにあるの?」
「ナイルの金色に輝く場所だ」
「ナイルの金色に輝く場所って何処?」
オシリスはそれには答えず、
「黄金のオシリス像を探しだし、オシレイオンに祀れ」
とアルウに命じた。
「オシレイオン」
オシリスの声がしなくなると、アルウの夢の中にナイルの同じ風景が繰り返し流れ、いつも夢はそこで終わり目を覚ますのだ。
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