それでもなお、

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「好き」 彼女の震えた声が、小さく漏れる。 「好きだよ。本当に、愛してる」 僕らは、これから別々の道を歩まなければならない。 僕は、彼女の前から消えるべき人間で、彼女に嫌われなければならない男だ。それは分かっている。だから、彼女にもっと幸せになってほしいと願っている。それでもなお、僕はまた、彼女に愛を囁いていた。 僕も彼女も、矛盾だらけだ。 普段、理論的に話すことが多く、芯の強い彼女。そんな彼女の言葉が矛盾しているのは、珍しいことだった。でも、この“矛盾”こそ、人間らしさなのかもしれない。なんて、僕は少しだけ嬉しく思う。 柔らかな彼女の髪を撫で、僕は彼女の背中に回していた手を離した。 きっと、もう二度とこんなに愛せる人には出会えないかもしれない。もう二度と、こんなに苦しくて、胸が痛むような思いもしないかもしれない。 だから僕は、彼女が残した胸の痛みを強くかみ締め、胸に焼き付けると滲んだ視界に映った彼女に背を向けた。 .
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