それでもなお、

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「もっと自由に生きることができたら、幸せにしてあげられたのかな。幸せにしてあげられなくて、ごめん」 僕の言葉に、彼女は笑いながら涙を流した。 もう、こんなに愛せる人には出会えない。そう思ってるのに、自分の手で幸せにできないことが苦しい。胸が痛くてたまらない。 「私、幸せになりたいからあなたといたんじゃないよ。あなたと一緒にいたいからいた。それだけ。でも、その瞬間、私は確かに幸せだったよ」 彼女はいつか、“幸せになりたいから誰かといる事を選ぶんじゃない。大事なのは自分が誰といたいかということで、幸せは後からついてくるものだから” と言っていた。 確かに、彼女の言うとおりだ。幸せになりたいだけなら、僕も彼女もお互いを選ばなかっただろう。僕らの関係に長期的な幸せは望めない。だけど、彼女と一緒にいると、僕はこの上ない幸せに包まれてしまっていることに気づいてしまった。それはたぶん、彼女も同じだ。 「君には、もっと、幸せになってほしい。なるべきだ」 僕は、また大粒の涙を流した彼女の肩を抱き寄せた。背中に手を回し、離さなければいけない手を、もう二度と離さないようにときつく彼女を抱きしめる。 いつの日か流行していた曲に、“強く抱いて君を壊したい” という歌詞があったけれど、僕は今、ようやくその歌詞の意味が分かったような気がした。
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