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つまりこういう事だ。
ゴスロリメイドはこの地球に住む人類ではなく、別の次元のセカイの、人類に似た知能を持つ生命体だそうだ。彼が働くペットショップはトリミングサービスも行っていて、トリマー中のペットに寄生虫が居たらしい。その寄生虫は次元を移動できる能力を持っていて、地球に飛ばされてしまったそうだ。言語や文化は内蔵ネットワークで調べる事が出来るので特に問題は無いのだが、元のセカイに戻る方法は情報だけではどうにもならず、途方に暮れていた所に俺が出くわした。
トリミング中に異世界に飛ばされるなんて……俺は地球に生まれたことに感謝した。
「で、その方法とは?」
「寄生虫の637番目の細胞に、鍵を差し込むんだ。普段は細胞を可視化できる専用の機械があって、こんな事態は特に問題ないんだが、どうやら同僚がボクのを間違えて持っていったみたいで、見当たらない」
「え!じゃあ帰れないのか!?」
「そこで、だ。君に協力してもらいたい……ところで、なんて呼べばいい?」
そう言えば、お互いまだ自己紹介すらしていない。
「あ、梅原です」
「ウメハラ……ウメでいいか?」
「どうぞ」
「ボクのセカイは固有名詞がない、というか、今はチューニングでこちらに合わせた形態をとっているが、肉体としての個がないんだ。このセカイでいう所の、オカユ……みたいな形状で混ざり合っていて、精神だけが区別されている。まあ、不便なら好きに呼んでくれていい」
ちょっと言っている事の意味が分からないが、詳しく説明してもらったところで結局は分からないと思ったので、スル―した。
「じゃ、じゃあ、おかゆさんで……」
我ながら、センスゼロだ。
「ウメはあの寄生虫が畳に見えると言っていたね」
おかゆが畳を指さして言う。
「うん。あのバス停で、おかゆさんの近くに畳が一枚立てかけられてた」
「ボクには、そうだな……ドブの水をゼラチンで固めたような物体に見える。多分次元の違いで歪んでいるんだろう」
それはなんというか、触るのは勘弁してほしい感じだ。
「だから俺が、畳のイグサを数える要領で鍵を差し込めばいいわけだ」
「ああ。といっても、今は興奮状態でとても近づけない。一週間たてば寄生虫が停滞期に入るから、そこを狙ってほしい。やってくれるか?」
俺の、無駄に過ごしたあの時間が、無駄に身に着けた妙技が、誰かの役に立てるなら、それが地球外生命体でも幻覚でも何でもいい。
「俺でよければ」
「ありがとう。その前に……」
なんだろう。俺には畳に見えるが、おかゆのセカイでは寄生虫だ。駆除のための特別な訓練が必要なのだろうか。自信と気力を喪失した今の俺に、果たしてクリアできるだろうか。
「その……部屋を片付けていいか?」
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