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「結婚したら、バイヤーなんて無理だって考えたのか」
「・・・それは」
私はまた、上手に言えなくて口ごもる。
どうしていつも肝心なところで、言葉に詰まってしまうのだろうか。
「海外に行くのが多いから?オレが反対すると思った?」
「ううん、そういう、わけではなくて」
それはむしろ、逆だった。
直哉は賛成してくれる。
直哉は絶対、私の決めたことなら反対する事はないと思った。
それはなにより私のことを、大事に思ってくれているからで・・・。
だけど、だからこそ、私は彼には相談せずに、一人で断ることを決めたんだ。
「じゃあ、なんで断ったんだよ。自信がないとかそういうの?そういうのって、やってくうちについてくもんだろ・・・」
同期で入社した直哉には、付き合う前から、私の夢の話をしていた。
誰よりも私の想いを知っていて、いつも傍で、励ましてくれていた人。
だから・・・だから余計に。バイヤーの件は、言わないでおこうと考えていた。
プロポーズをしてくれて、私はもちろん「はい」って言って、お互いの両親にいつ挨拶に行くかって、相談をしていたタイミング。
もしも、今じゃなかったら。
今だけは・・・順調な「今」を壊したくない。だから直哉には話さない。話せない。
そう決めていたけれど、伝わってしまった事ならば、私には、話す義務があると思った。もう、素直に話さなくては。
深呼吸する。
「直哉が反対するとは思わなかったし、それで結婚自体がダメになるとか、そういう心配はなかったよ。それは、なかったんだけど」
一度そこで言葉を止めて、私は小さく息を吐く。
目を見なくても、春哉の視線は受け止めていた。
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