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夕暮れが迫る橋の上。
いつもの駅で待ち合わせ、ここまでの道を二人で歩いた。
直哉は、会ってからずっと怒ったような顔でいるから、私は居心地悪いまま、彼の隣を歩いていた。
「・・・ねえ」
たまらず見上げて声をかけると、直哉はピタリと立ち止まる。私も続いて立ち止まり、不安な気持ちで声を出す。
「さっきから、なんでずっと怒ってるの・・・?」
久しぶりのデートだった。
お互いに仕事が忙しく、会社外でこうして会うのはかなり久しぶりになる。
すごく、楽しみにしてたのに。
それなのに、ずっと怒った顔をされているのは、私には理由がわからなかった。
「・・・あのさ」
彼がぼそっと呟いた。
私はうつむきかけた顔を上げ、直哉の顔を真っ直ぐ見上げた。
「バイヤーの話があったこと、なんで言ってくれなかったの?」
怒っているだけじゃない。切なさが入り混じっているような声だった。
私は、まさかそのことだとは思わずに、すぐに返事の言葉がでなかった。
「板谷さんに聞いた。欠員が出たから美久に声をかけたって。それなのに、なんであっさり断ってんだよ。バイヤーの仕事してみたいって、ずっと言ってただろ・・・」
ーーーそれは確かに夢だった。
洋服や雑貨が好きで、専門学校を卒業後、就職をしたアパレルメーカー。
高校生の頃から大好きなメーカーだったから、決まったときは嬉しくて、毎日毎日、その店の服ばかりを着回していた。
入社後に、配属されたのは販売部。
好きなものに囲まれて、好きなものが同じお客さんにも沢山出会えて、忙しいながらも普通に楽しい日々だった。
けれど心の奥にあったのは、「バイヤーになりたい」っていう、学生の頃から抱いていた夢。
好きなお店を、自分で選んだもので創りたい。
バイヤーとして活躍している、先輩への憧れの気持ちも大きくあった。
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