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バラの棘の涙
パスタを食べに来ないか、と誘われたのは水族館デートを断ってすぐのことだった。
吸血鬼である私を狩りに来たはずの彼、白辻冬弥はなぜか私をデートに誘ってくる。融通の利かなさそうなこのハンターさんにデートという自覚があるのかないのか知らないが、ちぐはぐな彼の行動が面白くて何となく無碍にもできない。
誘われたイタリアン料理店は、白辻さんが自ら開いているお店らしい。
どんなものかとネットで調べてみれば、場所は駅近でアクセスも良く、見た目もおしゃれだった。ただしレビューには『ニンニクがキツイ』とのコメントが多数寄せられている。ニンニク好きには堪らない店、とも書かれているが、まぁ彼の裏稼業が吸血鬼ハンターであることを考えると、ニンニクが多めになってしまうのも妥当と言えば妥当かもしれなかった。
「当日は、ニンニクを使わないパスタを用意するから」
嘘はない、真っ直ぐな瞳で彼は言い残して去っていった。
パスタは好きだが、外食は出来ない。なぜなら大抵のイタリアン料理店にはペペロンチーノが用意されていて、それには必ずニンニクが使われているからだ。隣の席で食べる客なんかいたら堪らない。だから、パスタを食べるとしたら自宅で作るしかなかったのだが。
「……行ってみてもいいかしら」
一応、すぐに逃げられる用意はしておいて彼のお店に向かった。
店に入った瞬間、目に飛び込んで来たのは大量のバラたちだ。壁に置けるだけ置いた、という感じで並べられたバラたちの香りは、おそらく染み付いてしまったニンニク臭を誤魔化すためのものだろう。
「でも、やっぱりニンニク臭いのね」
そう呟くと白辻さんはしゅん、としながら席に案内してくれた。頑張った彼に、流石に意地悪だったかもしれない。でも、普段あまり感情を表に出さない彼のちょっとしょげた姿は可愛らしくて、それを撤回する気にもなれなかった。
「お待たせしました。トマトクリームパスタです」
どうやら今日は貸切らしく、私以外にお客さんは来ない。目の前に出されたトマトクリームパスタは薄いピンク色のクリームに、バジルなどの香草がふりかけられていた。香草特有の香りが混ざり合って、爽やかな香りがする。確かにニンニクは入っていなさそうだった。
「トマトクリームは初めて食べるわ」
「ふ、普通のトマトソースの方が良かったか?」
「いえ、どんな味がするのか楽しみ。いただきます」
と、笑顔で言いつつも、さすがに自分を狩ろうとしたハンターが用意したものを完全に信頼はできていなかった。恐る恐る口に運び、舌の上でそっと転がして、ゆっくりと咀嚼する。口いっぱいに広がるトマトの酸味と、後からやってくるクリームのまろやかな甘み。鼻から抜けていく香草の香りが、後味を軽くした。
気付けば、テーブルの隣に立ったままの彼がじっとこちらを見つめている。どこか心配そうな顔、これも今までで初めてみた顔だった。
「パスタは美味しいのね」
私の短い感想に彼は花開くように顔を輝かせた。
この人、吸血鬼相手にこんなに感情を読ませて大丈夫なのかしら。可愛いけど。
気付けばパスタを次々と口に運んでいた。いっそワインでも頼めば良かった、と思いながらそれはまた次の機会にしようと決めた。
次の機会、いつの間にそんなこと考えるようになったのか。
隣で私が食べるのを嬉しそうに眺めている彼。そんな彼の顔に懐かしい人の面影が重なる。パスタの美味しさを最初に教えてくれたのは、そういえば彼だった。
基本的にバラの精気を吸って生きている私は、人と同じ食事を摂らなくても生きていける。だからわざわざ自分でパスタを作ることなんてめっきりなくなっていたけれど、昔はよくトマトソースのパスタを食べていた。
採れたてのトマトを潰して煮込んで、自然の甘みを楽しむようなあのパスタを。
彼と出会ったのは、大嫌いな両親と過ごす10歳の誕生日の夜だった。
「やめて! ミオちゃんは友達なのよ!」
親に呼ばれてやってきた食卓を見て目を瞠る。テーブルクロスのかけられた長テーブルの上には、夕方に帰ったはずの友人が横たえられていたのだ。
「今日はあなたの誕生日でしょう? 子供の血は混じり気がなくて美味しいんだから」
母親は舌なめずりしそうな勢いで友達の丸いおでこを撫でた。細い彼女の毛がさらりと横に流れ落ちる。深い眠りに落ちているのか、彼女は静かに胸を上下させながら硬く瞼を閉じていた。
日中は思うように動けない、という体質に苦しみながらも、それでも社会に馴染むために近所の小学校に通っていた。ほとんど保健室で過ごすような日も多かったが、私のことさえも気にかけてくれた優しいクラスメイトの女の子。それがミオちゃんだった。
彼女は、その日教室でどんなことがあったかを私に面白おかしく帰り道にいつも教えてくれた。体調が悪そうな私をいつも気にかけてくれて、日差しが辛いと言えば日傘を持ってきてくれるような子だった。
「いらない! 私は人の血なんて飲みたくない!」
「何を可笑しなことを言っているの? 吸血鬼は10歳になったら血の味を覚えていくものなのよ。今までは普通の人間のご飯でも生きてこられたけど、これからはそうはいかないわ」
「友達を食べるくらいならそのまま死んでやるわよ!」
私の言葉に母は絶句し、隣にいた父は驚きで顔を引きつらせたまま私の頬を強かに打った。突然の衝撃に受け身も取れず、私は床に転がる。
「死ぬなんて簡単に口にするんじゃない! お父さんとお母さんが今までどんな気持ちで……」
「いいわ、あなた……この子も血を飲めば本当の自分に気付くはず」
母は自らの鋭い爪を少女の首筋に当てた。それを横に撫でると、薄く赤い線が走り、やがてじわりと紅が滲む。
一瞬の出来事だったはずなのに、まるでスローモーションのように目に焼きついた。血の匂いがする。ミルクのような甘さを含んだ血の匂い。柔らかい肌の上を流れていく鮮血に、どくりと心臓が跳ねた。
体の奥から突き上げてくるような衝動がある。感じたこともないような興奮に、苦しさ。
「ほら、惟。あなたが飲むのよ」
やだ、そんなの飲みたくない。それが私の本心。
なのに、どうしようもなく苦しい。今にも獣のように飛びついてしまいそうだ。
目を瞑っても、匂いが麻薬のように脳を震わせる。思考が覚束ない。
誰か、誰か助けて……私は友達なんて食べたくない……。
ゆらりと足を踏み出しそうになったその瞬間、窓ガラスが弾け散る音と共に父が倒れた。何が起こったのか分からなかった。一拍置いて母の悲鳴が迸る。そっと父へと視線を向けると、胸に赤い染みが広がっていくのが見えた。まだ意識はあるのか、それでもわずかにもがくだけで起き上がれそうにない。
「やっと見つけたぜ、茨原一族」
粉々になったガラス片を踏み潰す鈍い音と共に、いがらっぽい男の声がした。全身を黒で包み、父を撃ったと思われる大きな銃を担いでいる。蓄えられた白毛混じりの髭の奥で、ニヤリと笑うのが見えた。
「嫌がる娘に無理やり血を飲まそうなんて、良い教育とは思えないねぇ」
「吸血鬼ハンター……!」
母が怒気を露わにする。何を思ったのか、ミオちゃんを抱え上げた。
「惟へのプレゼントの予定だったけど、こうなったら仕方ないわ……」
母が発達した犬歯を剥き出しにする。そこでようやく、何をしようとしているのか理解した。
「やめて!」
気付けば母へと突進していた。不意を突かれたのか、母は思いの外簡単に体勢を崩した。
「惟、何して……!」
驚く母親の手の中からミオちゃんを奪い取る。そのまま倒れ込んだ私の頭の上で、溜息を零す音が聞こえた。
「ごめんな、嬢ちゃん」
低い声と共に、体を揺らすような轟音が響く。キーン、と耳鳴りがこだまする中、視界の端で崩折れていく母親の姿を見た。
「お母、さん……」
その瞬間、倒れていた父親が咆哮を上げる。血走った目でハンターの男だけを捉え、次の瞬間には掴みかかろうとした。
父よりも歳を重ねているように見える男はそれを難なく躱し、目にも止まらぬ速さで体を翻す。回転の力をそのまま脚に乗せ、父の首目掛けて踵を振り下ろした。
「ぐぁ……っ!」
「お父さん……!」
鈍い音を立てながら父は床に倒れ伏した。それを最後に室内に静寂が広がる。
最初に動いたのは、ハンターの男だった。胸ポケットから鈍く光る杭を取り出し、倒れた父の背中に充てがう。そこはおそらく心臓のある位置だった。
「殺すの……?」
胸の中に友人を抱いたまま、恐る恐る尋ねた。一瞬、こちらを振り返った彼は感情の乏しい瞳で私を見つめる。
「お嬢ちゃんは知らないかもしれないが、パパとママはたくさん人を殺したんだよ。その罪は償ってもらわないとならねーんだ」
彼は杭に左手を添え、いつの間にか右手に持っていた槌が勢いよく振り下ろされる。一瞬、びくりと父の体が跳ねた。痙攣が止むと、父だった体は塵となって消えていく。
あぁ、どうしてだろう。私を今まで育ててくれたのは間違いなく父と母だったのに。殺されていくことにこうも心が動かないなんて。私は、そんなに薄情な心の持ち主だったのだろうか。
カーンッ、と音が響いた。はっとした時には、母が塵となって消えていくところだった。
「さて……」
男が私に向き直る。次は私の番だと静かに受け入れていた。この人から逃げられるわけがない。それに、私は自分の正体に気付いてしまった。
結局私も血を欲する化け物だったのだ。今だって、正気を保てているのが不思議なくらい、目の前の友達を食べてしまいたい衝動でおかしくなりそうだ。親が殺されたことに怒ることもしない。そんな私はきっと間違いなく人間ではない。
今殺されるべき、化け物なのだ。
「お嬢ちゃん」
私を呼ぶ声にびくりと肩を震わせた。そして、腕の中で未だ眠り続けるミオちゃんを見つめる。
「おじさん。ミオちゃんをちゃんと家族のところに返してあげてね」
「それが最期の言葉か?」
最期の言葉。父や母には容赦がなかったけど、私にはそんな情けをかけてくれるのかとちょっと嬉しかった。いや、今から殺す相手に対してそんな感情もおかしい気がするけれど。
「ううん。私の最後の言葉は、もっとミオちゃんと仲良くなりたかった、にして」
「人間と仲良くなりたい、だ……?」
彼が深く被った帽子の陰で、目をぱちくりとさせるのが分かった。意外と丸くて可愛い目をしている。
そしてそんな丸い目を何度か瞬かせると、彼は盛大に口を開けて笑い始めた。
「あははっ! そうか、仲良くなりたかったか! そうかそうか!」
突然の大きな笑い声に唖然とするも、伸ばされる大きな手に目をぎゅっと瞑った。
不意に暗闇の中で体が宙に浮く。驚きながら目を開けると、なぜか彼の大きな肩に担がれていた。
「え、ちょっと、何!?」
「嬢ちゃんは勘違いしてるようだから言ってやる。別に吸血鬼はみんながみんな狩られるわけじゃないんだぜ」
意味が分からないまま、私は血の匂いの立ち込める自分の家だった場所を後にした。
そして、それから日常は一変した。
両親を殺した吸血鬼ハンターの名は安土玄一郎と言った。吸血鬼ハンターだけで生きていけないご時世、彼の表稼業は農家だと言う。
「片田舎の農家だから部屋ならいくらでもあるんだ」
なんて言いながら、彼は身寄りのなくなった私を引き取ってくれた。成人し1人で生きていけるようになるまで、そして吸血鬼として人間社会に馴染めるようになるまで、彼は私の育ての親、もとい監視役を名乗り出てくれたのだった。
「向こうの畑、雑草取り終わったよ」
「おう、助かる」
夕方からなら普通に動ける私は、彼の農家としての仕事を手伝っていた。監視とは言え、彼にメリットがあるとも思えない私の世話をしてもらうのだから、これくらいは当然だと思っていた。
「お前は妙に達観しているというか、可愛げのねーガキだよな」
いつしかそれが玄一郎の口癖だった。
「そうだ。またあの子から手紙来てたぜ」
「え、本当?」
玄一郎と暮らすことになり、転校を余儀なくされた。幸いあの日両親に拐われた彼女は、眠らされていたせいか記憶が混乱し、私たちの正体など気付いてもいなかった。だからこうして、今でも手紙のやり取りを続けている。
「良かったじゃねーか。人間と仲良くできて。大事にしろよ」
転校してからも、私にはミオちゃんのように友人ができた。その話をするたびに玄一郎は嬉しそうに笑う。彼の大きく口を開けて笑う顔を見ると嬉しくて、私は彼の笑顔を見るためにも友達を大事にしようと思った。
そして、吸血衝動を抑えるために彼が私に授けてくれた知識もあった。
「バラ園の方はどうだ?」
「最近元気がないの。温度管理が悪いのかな?」
「分かった。あとで見に行ってやるよ」
吸血鬼はバラの精気を吸えば、人の血を飲まずとも生きられるらしい。農家をやっている玄一郎は、花などの植物を育てるのも上手かった。彼に教わりながら、今は彼の持っている畑の一角をビニールハウスにしてバラ園を作っている。
玄一郎の教え方はどこか感覚的なところもあるが、一応丁寧には教えてくれる。自分で何かを育てるというのはなかなか面白く、それが自分の食料にもなると思えばなおさらだった。
夏になると、赤いトマトが畑にたくさん実った。キッチンで玄一郎がせっせとパスタを茹でている。それを見ながら、私はダイニングテーブルを拭いて夕食の準備をするのだ。
バラ以外がほとんど意味のない食事になってくるのを実感しながらも、玄一郎との食事は楽しかった。味覚はおそらく普通の人間と変わらない。臭いのキツイものは苦手なものが多いけれど。
「出来たぞ! 玄一郎特製、トマトソースパスタだ!」
真っ赤なトマトにバジルの香り。どちらも彼の畑で採れたものだ。新鮮なトマトは甘くて、そしてすっきりとした酸味がある。この料理が出てくる時だけは、平屋のボロい一軒家も、おしゃれなイタリアン料理店のような香りが広がった。それも行ったことがないから想像だけど。
「玄一郎と過ごすことの1番の収穫は、パスタが美味しいと知ったことね」
「お前、他にもあるだろ。他にも。本当に可愛げのねーやつ」
自分の親の仇であるのに、こんなに気を許してしまうのは、やはり私が化け物だからだろう。人の心なんて持たないから、現状を静かに受け入れてしまえるのかもしれない。
それに、玄一郎との生活は静かで穏やかで楽しかった。
「そういえば、これ」
「何?」
「誕生日プレゼントだ」
あの夜から5度目の誕生日。どうしようもなく両親を思い出してしまうその日を、玄一郎と今まで祝ったことなどなかった。玄一郎を恨むのでも、両親がいないことを悲しむのでもなく、何となく私たち2人の間に出す話題でもないような気がしていたのだ。
だから、その発言にはひどく驚いた。
渡された箱を受け取る。開けるのは正直躊躇った。ちらっと玄一郎を伺えば、彼は何も言わずただ開けてみろ、と促す。
質素な白い紙の箱は、重くも軽くもない。静かに蓋を開ければ、そこには虚ろながら見覚えのあるものが入っていた。
「これ……」
汚れてはいるが、それは父と母の結婚指輪だった。吸血鬼であることに誇りを持っていた両親だったが、1つだけ人に対して憧れていたこと。それは結婚という目に見える形で契りを交わすことだった。それだけは人間の作った文明の中で素敵なものだと、いつか絵本を読み聞かせてもらっている時に母からこっそりと聞いたことがある。
人を喰らう化け物でありながら、その感情は矛盾していると幼心に思っていた。そんな違和感が、あの2人への嫌悪感へと繋がっていたとも言える。
この指輪はそんな2人の矛盾の象徴だった。
「ようやく上から取り返せたんだ。いらなかったら捨ててもいい」
やっぱり、両親は嫌いだ。ミオちゃんを食べようとした。それを拒否する私を否定した。
ずっと胸の中にあった蟠りは、そんな2人へのただの嫌悪感かと思っていたけれど。なぜだか手の中に握った指輪からは、違う感情が湧き上がってくる。
私は2人の家族“ごっこ”の中の1つの要素でしかなかったとしても、私はきちんと愛されていたのかもしれない。少なくともあの夜までは2人のことは嫌いだけど、それでもきっと、好きでもあった。
「ありがとう……」
手の平に食い込みそうになる指輪は冷たい。でも少しだけ暖かくなったような気がして、気付けば涙が溢れていた。涙の理由は自分でもよく分からなかったけど、あの夜以来、初めてきちんと泣いた瞬間だった。
「何だよ、ちょっとは可愛げのある顔するじゃねーか」
「化け物でも、涙って出るんだ……」
「人間だっていろんな奴がいるんだ。化け物だって、いろんな奴がいていいだろ。涙を流す化け物だって、実はそんなに珍しくないかもしれねーしな」
そう笑って私を慰めようとする玄一郎は、やっぱり少し変わっている。他の吸血鬼は知らないが、両親のことを考えると、私のような吸血鬼は少数派だろう。
私は源一郎の言葉を世迷言だと笑った。
でも涙は止まらなくて、パスタは少ししょっぱかった。
私を助けてくれようとしたハンターは白辻さんで2人目だ。玄一郎も相当変わっていると思っていたが、実はそうではないのかもしれない。ただ、白辻さんの助け方はまだ少し許せないけれど、まぁ結果命を助けてくれたのだから贅沢は言わない。
彼のお店はニンニクを使わなくなって、随分居心地が良くなった。おかげでニンニクの匂いも消え、すっかり常連だ。
「いらっしゃいませ!」
新しく入ったバイトちゃんは今日もほわほわと可愛らしい笑顔を浮かべながら席に案内してくれる。
「今日はトマトソースパスタでお願いできる?」
「あれ、トマトクリームじゃなくていいんですか?」
「ちょっと、久しぶりに食べたくなって」
きっと玄一郎のことを思い出したからだろう。不思議そうに首を傾げるバイトちゃんに持ってきていた袋を差し出す。
「これはあなたへのプレゼントよ」
「えっ、いいんですか?」
うちで育てたバラの花束の入った袋に、彼女は目を見開く。
血は随分薄いようだけど、私と同類である彼女のお腹の足しにはなるだろう。そんな私の意図を汲み取ったのか、バイトちゃんは嬉しそうに袋ごと大事に胸に抱えた。
「ありがとうございます!」
私以外にも人間と仲良くなろうとする吸血鬼がいる。それを間近で見られるのは、私にとっても嬉しいことだから。
類は友を呼ぶ、と言うけれどこのお店には変な人たちが集まってくるらしい。
「えぇ、美味しく食べてね」
玄一郎の言葉を世迷言だと笑った自分が今は懐かしい。結局、あの頃の私はまだまだ世間知らずだったのだろう。
人間と仲良くしたい吸血鬼を、私はまた1人見つけてしまったのだから。
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