フランスから来た皿

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 お嬢様専用の小さい机に、私は乗せられました。お嬢様は行儀よく椅子に腰かけ、私を手に取ります。奥様が重いだろうと手を添えましたがそれは気に入らなかったようで、結局机に置いたまま私を観察し始めました。赤ん坊の手からまだ抜け出していない、丸い手でぺたぺたと触り、波型をなぞり。大きな目を輝かせておいでです。どうやら、私は気に入っていただけたようでした。 「今日は何食べたい? カレー? つるつる?」 「カレー! これ!」 「このお皿使うの?」 「うん!」  私の初仕事が決まりました。お嬢様のカレー皿です。奥様はレトルトの、子供用カレーを取り出すと鍋に水を張り、温め始めました。幼児向けのパウチカレーはアレルゲン(アレルギーの元となるもの)を抜いた、消化に良く刺激も少ないカレーが多い上に、食中毒の危険も少ない素晴らしい加工品でございます。流石奥様、お目が高い。 「あまいの。好き!」  お嬢様としては、カレーの甘さがお好みの様でございます。暫く、お嬢様は私の観察を続けていました。ひっくり返して刻印を指でなぞっております。Yのところで両手を上に上げて、「わい!」とアルファベットの真似をしました。お嬢様はとても賢いのですね! フランスではイグレックというのですよ。 「い!」 「お皿にカレー入れたい人~! お皿を持ってきてくださーい」 「はーい」  お母様の言うことをよく聞く子ですこと。……『い』、というのはきっと、Yの“い”でしょう。私に口はありませんから。  さて、やわらかめに炊いた白飯にいい香りの甘いカレーをかけて、夕飯の時間になりました。奥様は私の仲間にご自分用のカレーライスを盛り、キッチンの真後ろにある食卓テーブルへ向かいます。壁の掛け時計は7時36分。カーテンのかかった窓の向こうは暗色。これはお夕食なのでしょう。お嬢様は引き出しからご自分とお母様の分のスプーンを持ってくると、精いっぱい背を伸ばして、テーブルにやっとのことでスプーンを置きました。カレーを配膳した奥様に向かって、得意げに両手を伸ばします。奥様はお嬢様を抱き上げると、幼児用の椅子に座らせました。お嬢様は膝の上に手を置いて、奥様が隣に着席するのを待ちます。ずいぶん大人びていらっしゃるのですね。3歳くらいかと思っておりましたが、もう少し上でしょうか?
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