フランスから来た皿

3/7
10人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
「いただきます」 「いたーだきます!」  奥様と同じように手を合わせて、食卓に向かって一礼して。幼児用の、正しい持ち方を教えてくれるスプーンを丸い手がにぎにぎ、とします。嬉しそうな笑顔で、カレーを掬いました。声を出しながら「ふぅー、ふぅー」と冷まし、一口。 「あふあふ」 「熱かった? 口開けて」  奥様がお嬢様の口に息を吹きこみます。落ち着いたらしいお嬢様は、口の中身を飲み込みました。 「もう少し冷ましてから食べようね」 「はあい」  幸せそうにカレーライスを食べていたお嬢様でしたが、だんだんと食べるペースが落ちてきてしまいました。しまいにはスプーンを眺めたり、私のふちを眺めてぼぅっと動きを止めたりしてしまうようになりました。カレーの量はそんなに多くなかったはずです。 「ゆいちゃん、ぼーっとしないで」 「うん」 「ゆいちゃん。これくらいは食べなきゃダメだからね」 「うん……」  奥様の語気が荒くなります。お嬢様はスプーンでカレーをいじりますが、カレーはすっかり冷たくなってしまいました。奥様は私を電子レンジに入れて、温めなおします。電子レンジから見える奥様の顔は不安そうでございました。 ふ、と気付きます。背丈ばかりで判断しておりましたが、やはりもう少し上、それこそ、4歳くらいだったのではないでしょうか。もしそうならば、お嬢様はかなり小柄です。この幼児期の小食は虚弱体質、そして発達不全と深く関わっています。――奥様の心配事がわかった気がしました。  結局、奥様が食べさせることでお嬢様はカレーを完食いたしました。奥様が私共を洗っている間、お嬢様はテレビにくぎ付けになっています。少し難しいところもある動物番組の様です。そういえば、お嬢様のいる部屋には本棚があり、様々な絵本や子供向けの動物・化学の本が置いてありました。勉強熱心、そして奥様が教育熱心なのでしょう。奥様を見上げます。相変わらず真剣な表情です。お嬢様への不安が奥様の真剣さ・真面目さに繋がっているようでした。せめて、何かお声かけができれば。「お嬢様はとてもお利口で、立派な方ですよ」と一言いうことができれば、奥様の不安も少しは楽になるはずです。しかし私は皿。それを語る口が無いのでした。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!