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となれば、他の方に言っていただくほかないのですが。気付いてしまったことが一つあります。夕食の時、奥様もお嬢様も一切、旦那様の話を出しませんでした。食卓テーブルには3つの椅子がありますが、3つ目の椅子は壁のほうへ追いやられていて、しばらく誰も使っていないような気配です。それだけでなく、きれいに片付いたお部屋の中に、男性らしいデザインのものは一切見当たりません。この家には恐らく、旦那様がいない。少なくとも、生活の拠点にはしていないのです。
奥様は一人ぼっちで、この家を支えているのでしょう。奥様もお嬢様もそれぞれのことに夢中で、1LDKのマンションと思しき部屋には、テレビの音と食器の擦れ合う音、流れる水の音ばかりが響きます。なんて静かなおうちなのでしょうか。私共が食器棚にしまわれると、お嬢様のお風呂の時間です。お嬢様は先ほど見た番組の内容を、一生懸命奥様に教えているようです。奥様は保育園の様子が聞きたいようで、お嬢様がハイエナ――お嬢様の独断で“プチ”ハイエナというかわいらしい名前に変更されています――について必死に語っているのをなだめました。
「ゆいちゃん、今日は保育園でどんなことがあった?」
「すなばにおっきいカエルさんがでてきたの。それで、みかちゃんといっしょにつかまえた」
「ヒキガエルだったら病気になっちゃうから止めなさい」
「トーキョーダルマガエルだから毒ないもん」
「そうじゃなくて」
「みかちゃんといっしょにカエルさんタワーつくって、うえにのっけた! でね、まーくんがこわがってにげた。おひるのときノロマっていわれたから、こわがりっていった。しかえし」
「ゆいちゃん、ママもうちょっと女の子の遊びしてくれたら嬉しいな」
「なんで? おままごと、いっつもおなじでつまんない。たのしくない。きぃちゃんちょっとちがうこといったらすぐおこるもん。きぃちゃんきらいだから、おままごとしない。やるならイッツレンジャーごっこする!」
「ピンク?」
「レッド! ゆい、あかがすき! そうじゃなかったらホワイトがいい! ピンクすぐつかまるからきらい。しょうくんがいつもレッドやろうとするから、こんどからじゃんけんでレッドきめるの」
「ホワイトはなんで好きなの?」
「あたまいいから! ピンチになっても、ホワイトがきたらだいじょうぶ! だからすき!」
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