フランスから来た皿

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 得意そうなお嬢様の声に、困ったような奥様の声が続きます。テレビのときはあんなにじっと座って静かだったのに、語り出すと一転、お嬢様の声は止まりません。そして、どうにも、女の子らしい話題はありません。女の子が好みそうなお人形やぬいぐるみ、あやとりやお歌の話は聞こえません。動物と戦隊ヒーロー、男の子との言い争い。そんなものでお嬢様の話は構成されていました。唯一男女関係ない話題は、絵本の話題でしょうか。 「おおきいくにのへいたいさんは、じぶんのくにで、やっつけてしまったちいさいくにのうたをきいたのでした! つよいくにはどっちでしょうか」  恐ろしいほどの好奇心がお嬢様の記憶力の源なのでしょうか。あの小さな頭のどこに、本を何冊も詰め込んでいるのでしょうか。入浴を済ませたお嬢様の髪を奥様が乾かしている間も、お嬢様の語りは止まりませんでした。椅子に座ったお嬢様の髪を椅子の背越しに()く奥様の表情は困惑気味です。お嬢様の語りは、恐らくいつものことなのでしょう。それなのに、奥様はそれに慣れていないようで、どこかぎくしゃくとした雰囲気をまとっておいでです。ドライヤーに負けないように声を張る笑顔のお嬢様にはその空気が伝わっていないのでしょうか?  ドライヤーの音が止まったとたん、お嬢様はくるりと後ろを振り返りました。やや咎めるような鋭い光が奥様を捉えます。 「ママ、きいてる?」 「聞いてるよ」 「おもしろくない?」 「面白いよ」 「ほんと?」  疑うような表情。子供は試すものです。親が期待に応えてくれるか、そして自分は親を喜ばせることができているかを。奥様はにっこり笑ってお嬢様の頭を撫でました。 「本当に。ゆいちゃんはいろいろ知っててすごいね」 「うん! きょうね、ひらがなれんしゅうしたの! こーだいくん、“ぬ”とー、“め”とー、“れ”がわかんなくなっちゃうっていってた。ゆい、“あ”がへんっていわれた」  頭を撫でられてご満悦の表情になったお嬢様は、奥様への確認作業を止めにしたようでした。ご友人の出てくるような話に切り替えたのは、そういった話を聞きたがる奥様への配慮でしょうか。子供というのは、案外親のことをしっかり見ているものです。
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